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ニーズは何か?

コラム「BOPビジネスの現場に見る、インドビジネスのこれから」 vol.1 

 ニーズは何か?
 Arc Finance プロジェクトマネージャー
 藤田 周子
 2014年12月11日

   

 BOP(Bottom of the PyramidまたはBase of the Pyramid)とはすなわち世界の所得ピラミッドの底辺に位置する、年間所得が3,000ドル未満のセグメントを指します。全世界に40億人、インドだけでも8億人以上がBOP層に分類されます。このBOP層を対象にしたビジネスが「BOPビジネス」と言われ、日本でも数年前から新しいビジネスチャンスとして注目を集めています。 

 とはいえ、調査検討したものの事業化には至らずというケースがまだまだ多いのではないでしょうか。まずは中間層攻略という結論に至ることが多いかもしれません。ただし、インドの場合、人口の約70%がBOP層にあたるので、本格的にインド市場に進出するならば、遅かれ早かれBOPビジネスを真剣に考えざるを得なくなるでしょう。

 私は過去4年間インドのBOPビジネスの内側に入って事業を作り拡大する手助けをしてきました。みな、CSRや慈善事業ではなく、本業しかもコア事業としてBOPビジネスを手掛ける企業です。そこでは、社会的使命と利益の両方を追求するのは当然のこととして語られます。というより、事業を継続できて初めて社会的使命が果たせるのですから、事業継続・成長のための利益確保は必須。そこに妥協はありません。

 このコラムでは私の実体験をベースに、インドのBOPビジネスの現場をご紹介したいと思います。日本企業のみなさまがBOPビジネスの可能性について、さらにはインドでのビジネス全般を考える際の何かのヒントになれば幸いです。

  
北インドの農村風景

 

無電化地域でのソーラーエネルギー利用

 インドの場合、都市部では90%以上の世帯が電力網につながっていますが、農村部ではわずか約55%のみ。実に約8,000万世帯(約4億人)が電気のない生活をしている計算になります。経済成長著しいインドですが、近い将来全世帯に電力網が行き渡るとは考えにくい。さらには “電化”されているにも関わらず、実際には1日2-3時間しか電力が来ない村も(あるいは1週間に一度しか電気が来ない村も)珍しくありません。村人たちは、政府の電力網整備に期待を抱きつつも、現実的な解決策としてソーラーエネルギーを積極的に活用し始めています。
 


インドで一番電化率の低いビハール州では、
商店の軒先にソーラーパネルが並ぶ(これで店の電力需要を賄っている)。

 

 一番安価で手軽なのが、ソーラーランタン。小さなソーラーパネルでLEDランタン(充電池内蔵)を充電します。携帯電話を充電できる機種もあります。価格は1,000円以下のものから5,000円近くするものまでさまざま。

 言わずもがなですが、明かりは経済活動の基本です。夕暮れ時・日没後も、商店は営業時間を延長し、職人は作業を続けることができます。農作業の準備、片付け、家畜の世話や乳搾り、畑に野良犬等が入らないよう見回りに行ったりもできます。家庭では、夕食の準備がしやすくなり、機織りなどの内職も可能になります。子どもは明るい照明の下で勉強できます。煙が出ないので、気管支炎などの健康被害もなく、やけどや火事の危険もありません。
 


 無電化村の自宅で美容室を営む女性。
ソーラーランタンは家事とビジネス両方に役立っている。

 

 と、ここまでは教科書通りの、ソーラーランタンのメリット。
ちろん、私もこうしたインパクトを支持するから何年もこの活動を続けています。
でも、いざビジネスをするとなると、それだけではないことに気づきます。

 

BOP層も普通の消費者

 村の人たちとおしゃべりをすると、見えてくるのは彼らもごくごく普通の消費者であるという事実。収入を増やしたい、出費は抑えたい、楽をしたい、楽しみたい、でも慣れ親しんだ行動パターンを変えるにはちょっと抵抗があるなあ、という感覚。

例えば娯楽。今や無電化村でもほとんどの世帯が最低一台は携帯電話を持っていますが、通話のためだけに使われている訳ではありません。特に若い人たちにとっては、廉価版のスマートフォンを使って音楽を聴く、ビデオを見るのが唯一の娯楽といってもいい。(どこの市場に行っても、最新ヒット曲やビデオクリップをマイクロSDカードにダウンロードするビジネスが繁盛しています。)灯油ランプの煙と暗さは我慢できても、携帯電話の充電が切れるのが何よりのストレス。だから毎日、或いは一日おきに近くの市場まで数キロ歩いていき、お金を払って充電する人も多い。

 

生活の中で直面する課題(あるいは、ストレス、悩み、不便)を解決する

 北インドの夏は厳しく、日中は45度を超えます。夜も気温は下がらず、蚊も多くて、とても寝られません。体力的にも精神的にも疲労が溜まります。「照明より扇風機が欲しい」というのは切実な(悲鳴にも近い)ニーズと言えます。

 ソーラーランタン購入者から、予想外の購入動機を聞くこともあります。ある女性は100%灯油ランプに頼っていましたが、毎月月末になると灯油が足りなくなってしまいます。かといって追加で灯油を買うお金もありません。仕方なく、ご近所を回って、余っている灯油を分けてもらっていました。ソーラーランタンは、毎月のように隣人に頭を下げて回るという屈辱から自分を解放してくれる。それが彼女の購入動機でした。 

 

願望(Aspiration)を支援する

 インドでは、教育熱が非常に高く、BOP層でも子どもを塾に通わせたり、学資保険に加入している世帯は多くあります。子どもがもっと勉強できるようにとソーラーランタンを購入する母親にもたくさん出会いました。

 BOPビジネス、あるいはソーシャルビジネスなどと言うと、何か特別なことのように聞こえますが、基本は変わりません。消費者が生活の中で直面する課題(あるいは、ストレス、悩み、不便)をどう解決できるだろうか、彼らが抱く将来の夢・願望を実現する手助けをできるだろうか、と問うところから始まります。客観的に見てどんなに社会的意義があっても、その製品やビジネスが成功するか否かを決めるのは、最終的にはBOP層の人々なのです。
 

 
 フォーカスグループでBOP主婦層のニーズを聞き出す。

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著者プロフィール


 

    藤田周子(ふじた ちかこ)
    Arc Finance プロジェクトマネージャー

 

 外資系コンサルティング会社、国内電機メーカー勤務後、NPO法人にてインド無電化農村地域へのソーラーランタン普及支援。その後、アメリカ・インド・アフガニスタンのインパクト投資・BOPビジネスの最先端で現場経験を積む。2012年より米国法人アーク・ファイナンス所属。貧困層のエネルギーアクセス向上に、ファイナンスの仕組みを活用する。現在は、主にマイクロファイナンス機関が、ソーラーランタン等クリーンエネルギー製品目的の貧困層向け小口ローンを開発・展開するのを、農村調査から事業設計、テスト販売まで幅広くサポートしている。デリー在住。

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