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高いですね(真の価値とは何だろう)

コラム「インドビジネスの原点を考える中で団塊世代が次世代に残したいもの」 vol.2 

 高いですね(真の価値とは何だろう)
 中堅鉄鋼商社オーミインダストリー 元デリー駐在員事務所長
 加納 恭夫
 2014年12月18日


 商社に入社して二年目(1973年)から、セメントの貿易を担当することになりました。
韓国メーカーの袋物セメントを中近東(サウジアラビア、クエート等)に販売するいわゆる三国間貿易でした。国内で取引のあったセメントメーカーは工場が内陸に位置し、輸出には不向きなメーカーであったため日本の輸出メーカーとの関係は脆弱でした。したがって、第三国に仕入れを求めてきた結果韓国のメーカー品を扱うといった状況でした。そうした中にあって上司からは以下の説明がありました。

「セメント産業は初期投資の大きい装置産業であるため、償却費等固定費が大きく工場をフルで
回転し、単位当たりの固定費を一定に維持することが必要である。

内需のピークに生産量を合わせると、必ず余剰生産量が生まれる。内需に合わせて生産してい
ると単位当たりの固定費が大きくなるため、フル生産から生まれる余剰量を輸出するといった
選択をせざるを得ない。こうした装置産業の特徴を十分理解し、輸出で調整できる機能を商社
は果たさねばならない。したがって三国品のスポット的トレードに依存することなく日本のセ
メント産業の将来を見据えた戦略が必要である。」

  こうした産業全体を見据え、具体的な戦略を構築すべくアクションを取り始めました。総合商社にはセメントだけのトレードではなく、石炭や鉄鋼石などセメント同様、船を用船して成立するトレードが(他の部署の取扱いでしたが)たくさんあることに気づきました。また、南アフリカから石炭を輸入しているが、オイルショック等によりその輸入需要が大幅に増加するところに着眼しました。南アフリカから石炭を運んで日本にくる船の状況を見てみると、日本から荷物なしで南アフリカに戻っているという実態をつかみました。その船にセメントを積むことを船会社に提案し、行きがけの駄賃程度の運賃でもカラで運ぶよりは利益が上がるのではと交渉した結果、破格の運賃を得ることができました。かかる運賃をベースに日本メーカーから他商社(まだそうした仕組みに気づいていない)より高いFOBで購入し、そして顧客には他商社より安いCIFを提供することができるとの商売の考え方のベースが整いました。それをもって何回も中近東に出張し、韓国商品で獲得した顧客をメインに日本製に切り替えていく交渉を始めました。

 

 五回目の出張の時でした。開口一番「高いですね」と日本語で言われました。その瞬間先方が英語で”It is too expensive”と言わずに日本語で表現してきたことをいかに受け止めるか、そしてその心はなんであろうかと考え、「先方は本気なのだ。そして私を信頼してくれているのだ」と直感し、他商社よりちょっとだけ安いレベルで交渉を成立させることができました。その後、袋物セメントからバラセメントに輸送形態を変える革命的な手法を開発し世界の貿易量の7%を確保するビジネスに育て上げることができました。(※1)。「高いですね」から生まれたビジネスですね。そして単にスポットの商売で高い安いで終わらず中期的な観点から最も有効なコンセプトをともに考えるということを判ってくれたスポット顧客からともに頑張るパートナーになってくれた分岐点であったのだと感慨深いものがあります。

 

 さて、インドビジネスを考えてみましょう。インドの顧客はまず価格から聞いてきます。そして「高いですね」から交渉はスタートするといっても過言ではありません。いろんな観点から、高くても結局は得なのであると説明をするのですがなかなか納得してくれません。

  ある日のことですが、我々が日本から供給している鉄の加工を行っている会社のオーナーが次のようなことを言ってきました。中国の新品の加工ラインを買おうと思ったが、価格が高くても日本の中古ラインを買うことにしたいので協力してほしい。」いつも高い安いと言っている人がどうしてこんな判断をしたのですか、と単刀直入に聞いてみました。「いつも貴方が言っていることではないですか。メンテナンスの行き届いた日本の中古は新品同様であり、かつそのラインを動かすことによって従業員が真の匠のこころを学ぶことができるからです。」 

 話を聞いていて目頭が熱くなってきました。「真の競争力とは何か(現在だけではなく将来を見据えた)」は、本当に自分の仕事を愛しそして従業員の幸せを考えるオーナーにとって日々繰り返して熟考するものであり、そうした熟考の中からかかる結論を導き出したオーナーの言葉に感銘を覚えました。もちろんこのオーナーは日本にも何回も来て仕入れ可能な現場のラインをこと細かく見ていたので、自分で納得しての話であることは言うまでもありません。
 

      

鉄の加工工場の様子

 

 本章で申し上げたいことは、真に競争力のあるものは、たゆまぬ努力によって生まれた問題意識の中から生まれるものであり、そうしたプロセスを我々自身も同じ気持ちでともに考え提案していくことであると思います。日本語で高いですねと言ってくることはともに考えてほしいという意味だというレベルまで関係を日々の汗と涙で構築していく必要があると思います。 

 形が整ったかどうか気にしながら作成したプレゼンや、メリット・デメリットの比較表等だけでは他人を納得させることはできません(特にインド人は)。また、相手の考え方を勝手に決めつけずに一緒になって考えていくといったスタンスが必要であると思います。その土壌は前章で説明した文化の根底にあると思います。           

以上

 

                               
※1:つなぐいのち基金のインタビュー記事を参照ください。
http://tsunagu-inochi.org/advices_3/

                  

<御社のインドビジネスをお手伝いします>
株式会社 インダストリー (顧問 加納恭夫)
info@industree.asia

 

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著者プロフィール

 

 

加納 恭夫
中堅鉄鋼商社オーミインダストリー 元デリー駐在員事務所長

 

 

 前52歳まで大手総合商社に勤務し、最後の職責は米国法人の物資不動産部門長兼シアトル支店長。同社を退職後、IT企業の社長、ベンチャー企業の社長等を歴任し、現在中堅鉄鋼商社の顧問等を行っています。
 40年以上の歴史の中で、中近東へのセメントの輸出、三国間貿易において新規な物流方法をあみだし(袋ものセメントからバラセメントでの輸送等)世界の貿易量の7%のシェアーを握るまでのレベルに成長させ、その後、台湾、米国に駐在し、合弁事業の立ち上げ、企業の買収、また、中堅鉄鋼商社のインドでの独立法人設立等、多岐にわたる分野において経験を積んできています。(65国に出張)
 現在の日本をそうした経験から見てみると、結果論だけで物事の判断を行ったりといった、あるいは人のせいにしながら自分を守るとかといった風潮が見られ、ちょっと寂しい感じを抱きます。我々の世代は大いなる問題意識をもってそれこそ汗と涙を流し、そして仕入先、販売先の人たちそして社会に貢献したいとの愛をもって取り組んできていたと思います。そうしたわれわれの世代の経験を次代に引き継ぎたいという思いで今回の執筆を行いたいと思います。

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