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エンドユーザまで製品を届ける

 コラム「BOPビジネスの現場に見る、インドビジネスのこれから」 vol.2 

 エンドユーザまで製品を届ける
 Arc Finance プロジェクトマネージャー
 藤田 周子
 2014年12月25日

 

 今回も前回に引き続きソーラーランタンを例に、BOP層の消費者へのマーケティングと販売、いわゆるラスト・マイルをどうやって攻略するかを考えてみたいと思います。

 

クチコミのちから

 あるとき、ビハール州の片田舎の小さな商店にソーラーランタンが並んでいるのを発見しました。ポスターも貼ってあります。全く電力網の通っていない地域の、集落への入り口にある商店。さぞや売れるのだろうと思って聞いてみると、「いやー、実は俺は一個も売ったことがないんだよ。」「全部うちの奥さんが知り合いに売っている。店はただの在庫置場さ。」との答え。
 

  
店は売り場ではなく在庫置場だった。


井戸端会議でソーラーランタンを吟味する女性たち。この日は二人が購入した。

 

 石けん、シャンプー、歯ブラシなどの日用消費財と異なり、ソーラーランタンは社会課題を解決するメリットがあるものの、その存在やメリットがまだ十分知られていないため、店先に並べるだけでは売れていかないのが常です。農村では、クチコミに勝るマーケティングツールはありません。

 

農村に存在するネットワーク

 とはいえ、奥さんが隣近所に売るだけでは売上にも限界があります。では農村にどんな組織・ネットワークが存在するか考えてみましょう。

 ひとつはマイクロファイナンス。借り手(ほぼ100%女性)はマイクロファイナンス機関(MFI)から小口融資を受け(大体20,000~55,000円)、1~2年かけて返済します。インドのマイクロファイナンス会員は約2,500万人と言われており、MFIは会員数千人から数百万人まで大小さまざまな規模ですが、業界としては年率30-50%で成長しています。[1]

 近年MFIの中には、会員の生活向上をサポートするために、ソーラーランタン、改良型クックストーブ、浄水器、トイレ等の製品を紹介・販売しているところがあります。希望者にはローンも提供します。(こうしたMFIを支援するのが私の現在の仕事です。)

 
会員は10~30人単位で毎週集まり、グループごとに集金・返済する。

 

 次に自助グループ(Self-Help Group: SHG)。これもマイクロファイナンスと同様、毎週女性たちが数十人単位で集まり、少額積立や相互貸付を行います。銀行からグループで融資を受け、毎週集金・返済する場合もあります。2,000人ほどの会員が一つのネットワーク(SHG Federation)を作ります。

 
フィールドスタッフがSHGのメンバーにソーラーランタンを紹介している。

 

 農家向けのネットワークもあります。例えば、近年インド政府も積極的に支援しているFPO(Farmer Producer Organization)は、数千の農家が出資者となって営利団体を作り、種や肥料の共同購入、収穫物の選別・貯蔵・出荷、さらには農業技術の習得・導入を進めるものです(農協のようなイメージ)。この1-2年で加速した取り組みで、野菜、果物、大豆など、特定作物の生産者ごとに組織化することが多いようです。

 

起業家ネットワーク

 エンドユーザのネットワークだけでなく、売り手のネットワークもあります。農村の起業家(Village-Level Entrepreneur: VLE)を育成・組織化し、販売網を運営する社会企業も台頭しています(Frontier Markets, Dharma Lifeなど)。

 


Frontier Markets社のVLEのひとつ。鉄道チケット販売との兼業。

 あるいは、Common Service Center (CSC)。これはインド政府が、農村部・遠隔地の住民に行政サービスを提供するために推進しているもので、人口2万人あたりに一つのCSCを設置するのが目安とされています。CSCは出生証明書や納税者カードの発行、電気料金支払いなどのサービスを提供しますが、運営は民間に委託されています。詳細は州によって異なりますが、CSCの収入源は基本的にユーザから徴収する手数料のみなので、CSCを運営する「起業家」は自分の収益を高めるために、公共サービス以外のモノ・サービスの販売に意欲的です。私が訪問したCSCも、プリペイド携帯の支払いから、列車予約、さらには牛のエサまで、さまざまな商品を扱っていました。もちろんソーラーランタンも。
 


CSCはPC、プリンタ、インターネット接続完備。発注もオンラインで。

 

 

ネットワークを活用する意味 

 以上のようなネットワークと協業することで、大人数の会員にまとめて販売できるだけでなく、会員を通してその親戚・近隣住民に販売することができるようになります。中には、BASIXのように、複数のSHG Federation, FPO, CSCを運営する組織もあり、まとめてターゲット顧客層にアクセスできるというメリットは大きいでしょう。

 ただし、スケールだけに注目すると、協業の本質を見誤る恐れがあります。なぜなら、こうしたネットワークの本当の価値は、消費者の抱いている「信頼」だからです。

 例えばマイクロファイナンスの場合、会員は毎週集金係(ローンオフィサー)と顔を合わせており、それが何年にもわたって続きます。「○○さん(MFIのローンオフィサー)が薦めるなら、安心して買えます。」現場を回るとこのセリフを何度も聞きます。

 また、ビハール州のある地域では、マイクロファイナンス業界第一位のBandhanと二位のSKSが揃ってソーラーランタンを(ローン付きで)販売しています。(偶然ですが、異なるメーカーの製品です。)その地域に行くと、それらの製品は「Bandhanのライト」「SKSのライト」と呼ばれています。メーカーの名前なんて知らない。でも上記MFI 2社の名前はよく知られていて、彼らが売っているという事実が製品の信頼性を高めているのです。(裏を返せば、こうしたネットワーク・団体は取扱商品を選ぶ際、非常に慎重になります。下手をすると自分たちが長年培ってきた信頼を壊すことになりかねないのですから。)

 日本企業がBOP向け製品を販売する場合、今回ご紹介したような既存のラスト・マイル流通網を積極的に活用すべきだと思います。(というか、活用しなければ、経済性を維持しつつターゲット顧客層までたどり着けません。)そして、その際にはくれぐれも「物理的ネットワーク」と「目に見えない信頼」の両方を利用させてもらっているのだということをお忘れなく。

[1] responsAbility, “Microfinance Market Outlook 2014: No “sudden stop”: demand for microfinance soars

 

 

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著者プロフィール


 

    藤田周子(ふじた ちかこ)
    Arc Finance プロジェクトマネージャー

 

 外資系コンサルティング会社、国内電機メーカー勤務後、NPO法人にてインド無電化農村地域へのソーラーランタン普及支援。その後、アメリカ・インド・アフガニスタンのインパクト投資・BOPビジネスの最先端で現場経験を積む。2012年より米国法人アーク・ファイナンス所属。貧困層のエネルギーアクセス向上に、ファイナンスの仕組みを活用する。現在は、主にマイクロファイナンス機関が、ソーラーランタン等クリーンエネルギー製品目的の貧困層向け小口ローンを開発・展開するのを、農村調査から事業設計、テスト販売まで幅広くサポートしている。デリー在住。

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