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インド家電市場の覇者 – LG & Samsung

コラム「インドの上にも10年」 vol.3 

 インド家電市場の覇者 – LG & Samsung
 Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
 荒木 英仁
 2015年1月13日

 

 

 

 

 第1回目のコラムでも簡単に触れたが、2013年末にEconomic Timesで発表されたインドで最も信頼されるブランドのConsumer Durable(家電)セクションで1位と2位になったのがLGとSamsungである。今回のコラムは、数多くのインドの老舗家電ブランド、欧米、日系ブランドが凌ぎをけずるこのインド家電市場において、参入後10年以内で数多くの家電カテゴリーでシェア、ブランドポジション共にトップとなり君臨し続けるこの韓国家電ブランドについて少し掘り下げてみたいと思う。

 他の先進国の様に家電市場が飽和状態で無く、未だインド家電売上全体の65%が都市部に集中するインドではその他の人口の70%を占める農村部の需要が右肩上がりである事は間違いなく、現在世界12位の家電市場規模のインドが2015年にはUS125億ドルに到達し、2025年までに年平均10%弱の伸長が期待され、世界5位の市場になると予測されている。インドの家電(Consumer Durable)は大きく2つのセクターで形成されている。TVやPC等に代表されるBrown Goods(黒物家電)と冷蔵庫、洗濯機等に代表されるWhite Goods(白物家電)とに分けられる。日系ブランドではかろうじてFLAT TV市場でSONYがトップ3に名を連ねているものの、白物家電の代表格である冷蔵庫、洗濯機に至ってはLGとSamsungの2ブランドが市場の約5割を独占している。

 

 

 (出所:CurrentWeek.com)

 

 日本家電での中ではパナソニックが1990年、日立が1991年、そしてソニーは1994年にインド市場に参入した。Samsungは1995年後期に参入、LGに至っては100%独資で参入したのが1997年である(80年代後半、90年代前半2度に渡りインド企業とのJVでインド市場参入を試みたがどちらも失敗している)。現在の家電市場の2大韓国メーカー独占(特に白物家電)のシェア分布は私がインドに赴任した2005年当時、既に形成されており、それ以降あまり変わっていないのである。では何故ここまで日系メーカーと韓国メーカーとの間にこの様な差が出てしまったのかを考察したいと思う。

 LGとSamsungがインドに参入した当時のインド家電市場にはインドの老舗メーカーのGodrej(1897年設立)、Videocon(1974年設立)、Onida(1982年設立)、欧米メーカーのWhirlpool、GE、Phillips、日系メーカーのPanasonic(当時はNational Nippo)、日立、ソニー等数多くの競合家電メーカーがひしめいていた。当時の日系メーカーは主なターゲットはアセアンや中国にあり、インド市場に対しあまり長期ビジョンを持っておらず、市場特性に柔軟に対応するより、日系メーカーの高い技術力の特性を生かし、ブランドポジションを超高級プレミアムに位置づけ、ターゲット市場も購買力の高い都市部中心に集中していた。その一方でインドのメーカーはR&Dに掛ける財力も乏しかったので、値段は安いが、品質、技術力に劣り製品としての魅力に欠けていた。そんな中で、SamsungとLGはインド市場の持つ高い将来性を見出し、欧米や日系メーカーと一味も2味も違う戦略をとったのである。

 

ブランド構築

 両者共にブランド構築に使った広告宣伝予算は、参入当初からの日系企業の数倍のものであったと言われる。売り上げの無い市場に最初から数億円もの広告予算をつぎ込むには本社支援が不可欠なのだが、日系企業の場合はそれを実施すると国税から贈与税として大半の予算を持って行かれるが、韓国のメーカーは政府の指導で生き残った経緯もあるのでこの辺りも政府のバックアップが大きく関与していたと思われる。当時のパパママショップが主流の家電販売店で商品を扱って貰う為には知名度を上げる事が必然であった。インドは日本の高度成長期の時代の様に、まだまだTVに出てなんぼの国(TVに出るイコール信頼のおけるブランド)であるので、市場参入と同時に数億円(今では数十億円投下している)も広告宣伝に使い、ナショナルクリケットチームのスポンサーや有名ボリウッドスター達をブランドアンバサダーに起用した韓国ブランドが数年でブランド浸透を果たした功績は大きい。

 私が前職の広告代理店で赴任した2005年当時ですら殆どの日系ブランドが1億円の広告予算を捻出するのに大変であった時代である。更に日系企業と大きく違っていたのは彼らのコミュニケーション手法であった。多くの日系ブランドは高い技術力に基づく製品の優位性を訴求したコミュニケーション戦略を取っている中(これは殆どの場合日本人マネージメントが広告表現等の最終判断を下す事が大きく関与していると思われる)で韓国勢はインド人ターゲットに刺さる広告表現(製品力の訴求では無く、インド人が共鳴し易く、感性に訴えるようなエモーショナルな表現)を用いた事がブランドポジション並びに多くのインド消費者に受け入れられた要因と考える。これが可能になったのは、LGもSamsungも市場導入当初から1.商品開発、生産並びに品質管理を韓国人マネージメントが責任を持ち、2.マーケティング・セールスの部門をインド人エキスパートに完全に委任した分業制度を取り入れた事が大きい。結果としてPRの面でもインド人マネージメントを会社の顔として全面に押し出す事になった点も早い段階で韓国ブランドが市民権を得てインド消費者に受け入れられた大きな要因である。

 

独自の販売チャンネル

 今でこそChromaやReliance Digital等のマルチブランドの大手家電チェーンが主要都市に展開しているが、各家電メーカーのインド市場参入当時は殆どが2坪程度の家電小売店に段ボール箱山積みが当たり前の時代だった。そんな中、多くのメーカー(日系も含む)はある程度の流通網を持つインドのパートナーと提携しセールスを任せていた。限られたマーケティング予算の為インセンティブにも限界があったので期待した成果を上げる事は難しかったと思われる。

 そんな中、後発の韓国勢は独自にセールスチャンネルを構築していった。まず東西南北をゾーンに分けそれぞれの地域に顔に利くマネージャーをリクルートして、責任をどんどん移管していった。
結果として、地域特性に基づくマーケティングが展開され成果を上げていった。今でも多くの家電メーカーが主要都市部にしか販売拠点を持っていない中で、LGは47都市に、Samsungは60都市にそれぞれ独自の販売拠点を持っている程大差がついている。そしてそれぞれの販社が独自に予算を管理し地域特性に合ったプロモーション展開を独自に判断し実施しているのだ。

 

他の追従を許さぬ豊富なラインアップとインド市場特性に合わせた独自の商品群

 Samsungは製品のデザイン力、技術力を全面に出し、当時のSONYを直接競合と位置づけ、都市部を中心とした日系ブランドの取った戦略に近い形でインドに参入。 一方のLGは最初からインド全域を市場と捉え、誰でも手が出せるお手頃な価格で機能満載の商品ラインアップでインド市場に参入。

 全く違う道を辿った両者であるが、他の日系家電メーカーと大きく差が出たのが、守備範囲の広さである。例えばTVを例にとって見ると最上級機種から最も廉価盤のTVまでの種類の豊富さは日系が5機種であれば韓国勢は20機種も揃えて農村部から大都市部まで全ての需要に対応出来る体制をとっている点で、この差異(日系1:韓国勢4)が黒物から白物まで殆ど全てのカテゴリーに渡って展開されているのだ。 これも前項で触れたようにマーケティング戦略が全てインド人に全権委任された点が大きい。これによって、消費者の収入増による買い替え需要の際もブランドスィッチさせず売上増に大いにプラスに働いたのである。

 更にLG、Samsung共に他の日系メーカーと大きく違ったのはインドの消費者を徹底的に研究し、ただ単純に性能向上を図るだけでなく、インド市場に合わせた製品を次々導入していったのである。場合によっては無駄な機能を省きその分低価格な商品を導入して市場を席巻していった。 LGを例に取って見ると、当時の電子レンジは機能満載で値段も2万円程度が主流の時にインドでの需要を研究し画期的なモデルを投入し成功を収めた。市場調査してみるとインドで電子レンジを購入している家庭は全インドの1%程度。更に分かった事はその1%のうち95%の家庭では食品を温める事にしか電子レンジを使用していない事が判明。初期の電子レンジの機能程度で十分であったので、市場価格5000円程度の(出回っていたモデルの約1/4の価格)モデルを投入。これが飛ぶように売れたという。インドの西南地域の消費者が大音量で重低音を好む事が分かれば、出力2000ワットのスピーカー搭載のLCD TVを導入した。その他のアジア諸国仕様の冷蔵庫は冷凍庫の容量が大きく冷蔵庫の容量が少なかったので、ベジタリアンが多く、冷凍保存というより、アイスを作る事しか冷凍庫の利用法が無いインド用に冷蔵容量を大幅に増やしたモデルを投入した。電力供給が安定しないインドでは停電が日常茶飯事であり、通常の全自動洗濯機の場合電気が止まるとリセットしまうので、停電し停止しても電力が復旧した場合に停止した時点から再起動出来る設定のモデルを導入等、韓国企業がインド市場にかけたコミットメントは相当なものである。

 

 アフターサービスにも抜かりが無い、私自身も経験者であるが、LGやSamsungのアフターサービス網は、対応スピードも含めずば抜けている。日系のそれとは比較にならない程整備されている。インドの消費者はインド製品に慣れているので、壊れたら直して使えば良い的な人が多いので、この領域でも韓国ブランド信者を増大させていると思われる。

 これは韓国メーカーから送り込まれたインドのカントリーマネージャーの判断力、ローカルスタッフのマーケティング力と長期的な視点に立ちR&Dにおいてもインドへの投資を惜しみなく続けた韓国本社の決断力のたまものであると思う。 結果、LGに至っては2015年度にはインドの売上が本国を抜きアメリカに次ぐ世界で2番目の市場に成長であろうと言われている。

 多くの日系メーカーが未だ安定した黒字化に四苦八苦している中で、この2大韓国メーカーに学ぶ事は多いように思える。やはりこれから、この市場に成功するには、今までのアセアン、中国市場での成功事例を一旦白紙に戻し、全く違う市場として捉え、特にマーケティングに関してはインド人エキスパートの意見も大いに取り入れる事が成功への近道であると考える。

  

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著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

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