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民間救急車1298

コラム「BOPビジネスの現場に見る、インドビジネスのこれから」 vol.3

 民間救急車1298
 Arc Finance プロジェクトマネージャー
 藤田 周子
 2015年1月22日

 
今回と次回は2010-11年にかけて私が働いた、救急車ビジネスの事例を材料に、インドビジネスのヒントを探ってみたいと思います。

 

民間企業が救急車?!

この会社に出会うまで、日本に住んでいるときにはあまりにも当たり前すぎて、救急車が存在しない国があるなんて想像したこともありませんでした。ところが(ほかの多くの途上国と同様に)インドでは一応州政府の管轄になっているものの、全く機能していない状態が長年続いていました。102という日本の119にあたる救急車用の番号があるのですが、電話をかけてもどこにもつながりません。

そんな状況を変えるべく、2003年、貧富の差に関係なく、誰もが利用できる高品質の救急車サービスを作るために5人の若者がZiqitza Health Care Ltd(ZHL)を立ち上げました。アメリカで救急車に親の命を救ってもらったり、インドで親が倒れた際なすすべもなく立ちつくしたり(幸い命は取り留めました)と、強烈な個人的体験を持つメンバーもいました。ムンバイでたった2台から始まった救急車サービスですが、現在は17州1,250台までに成長しています。

 

料金体系に工夫

まず、1298のサービスの流れはこのようになります。
1. 患者がコールセンター(電話番号は1298)に電話をかける。
2. その際、病気やけがの症状、迎えに来てほしい場所、そして行先の病院を伝える。
3. コールセンターはGPSで救急車両の位置を把握しているので、最寄の車両に連絡し、出動を指示する 。 

ポイントは、ステップ2。ここでの会話で料金が決まります。
まず、事故の場合、完全無料になります。それ以外の場合、走行距離に応じて料金が決まりますが(タクシーみたいですね)、行先が私立病院ならば規定料金満額、公立病院ならば割引額が適用されます。

インドの公立病院は残念ながら設備も質も劣るので、お金持ちでなくても、私立病院に行く人がほとんどです。公立病院を指定するということは、よっぽど経済的に困窮していると言えます。

 


ムンバイ市内で患者を迎えに行ったときの様子。
背景の集合住宅に住んでいた患者は、最新の私立病院に向かった。

私が働いていた2011年時点では、無料または割引対象患者が約3割を占めていました。それが数年かかって同社がたどり着いた、ちょうど採算のバランスが取れる割合でもありました。このように、料金体系を工夫することで、ZHLは社会的ミッション(誰でも利用できる)と採算性の両立を実現しました。

 

救急車に乗りたくない?!

事業をスタートするにあたって、創業メンバーが直面した課題があったそうです。実はインドには当時も民間財団やNGOが運営する救急車は存在しました。しかし、専らご遺体を運ぶために使われていました。ですから、生きているのに救急車に乗るなんて縁起でもない!と思われてしまったそうです。

また、救急車には医療器具が装備され、救命救急士が同乗している、という基本的な事柄さえも知られていないため、わざわざ救急車を呼ぶよりも、家の前でオートリキシャをつかまえて病院に行く方が早くて確実と思われていました。

さらには、真新しい救急車を見て「あれはお金持ちのための乗り物で、(貧しい)私の家になんて来てくれるわけがない」と思われていたこともあったそうです。

ZHLのチームは認知度アップのための啓蒙活動を積極的に行いました。救急車でスラムや農村に行き、扉を開放して、中を見せたり、中に入ってもらったり。血圧測定のようなちょっとした検診を無料で行ったりもしていました。

 


農村での啓蒙活動(写真提供:Ziqitza Health Care Ltd.)

 

人材育成


創業当初のもう一つの大きな課題は人材の確保でした。救急車がほとんどない、ということは、救急車に乗る救命救急士もいない、ということです。そこでZHLは姉妹組織として非営利の人材育成機関Lifesupporters Institute of Health Sciences (LIHS)を設立。アメリカの専門機関等と提携し、インド初の救命救急士育成コースを作りました。これにより、高品質の救急サービスを支える人材を、自ら育成できるようになったのです。

人材がいないなら自分で育てる。育てるノウハウが国内にないなら海外から持ってくる。人材の質を担保する認定制度がないなら自分で作ってしまう。この行動力、見習いたいですね。

また、社内の研修部門ではなく別組織なので、ZHL社員でなくても、希望者は誰でもコースを受講できます。医療関係者がスキルアップ・キャリアアップの一環として受講することも多いようです。業界全体の底上げに貢献しているといってもよいでしょう。

次回は、ZHLがどのようにして急成長を遂げたのかを見てみたいと思います。

 

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著者プロフィール


 

    藤田周子(ふじた ちかこ)
    Arc Finance プロジェクトマネージャー

 

 外資系コンサルティング会社、国内電機メーカー勤務後、NPO法人にてインド無電化農村地域へのソーラーランタン普及支援。その後、アメリカ・インド・アフガニスタンのインパクト投資・BOPビジネスの最先端で現場経験を積む。2012年より米国法人アーク・ファイナンス所属。貧困層のエネルギーアクセス向上に、ファイナンスの仕組みを活用する。現在は、主にマイクロファイナンス機関が、ソーラーランタン等クリーンエネルギー製品目的の貧困層向け小口ローンを開発・展開するのを、農村調査から事業設計、テスト販売まで幅広くサポートしている。デリー在住。

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