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インドの公共救急車108~官民連携で急成長

コラム「BOPビジネスの現場に見る、インドビジネスのこれから」 vol.4

「インドの公共救急車108~官民連携で急成長」
 Arc Finance プロジェクトマネージャー
 藤田 周子
 2015年2月5日

 

前回は、インドのソーシャルベンチャーZHLが立ち上げた救急車ビジネスのしくみをご紹介しました。利用者からの料金で採算を取る、ただし貧困層にも手が届くよう経済力に合わせた料金体系を導入していることなどに触れました。 

今回は、ZHLがどのようにして急成長を遂げ、1,250台にまで規模を拡大できたのか見てみたいと思います。

 

民間での成功を見て政府が動いた

ZHLのような一民間企業が単独で救急車事業を運営し、質の良いサービスを提供できているという事実は、救急車の公共サービス化の後押しにつながりました。2008~2009年頃から、各地で州政府が動きだし、公共事業としての救急車が導入され始めます。
 

 パンジャブ州政府による救急車。電話番号は「108」

ただし、(これはインドではよくあることですが)州政府自らが事業を運営するのではなく、民間企業へ委託する形で進められました。ノウハウを持ち、顧客満足、そして収支にも敏感な営利企業の方が、効率よく且つ質の高いサービスを提供できるだろうとの考えからです。

 

実際、ZHLには専門のチームがあって、利用者にフォローアップの電話をかけて常にフィードバックを集めていましたし、大手企業の第一線で経験を積んだ人材を積極的に採用していました。タクシー会社で運転手研修を企画していた人が今度は救急車の運転手研修を手掛けたり、外資オフショアコールセンターから救急車のコールセンターに転職してきたり、という具合に。

 

スピードとスケール

ZHLは2009年ビハール州政府からの受託を皮切りに、ケララ州、ラジャスタン州、パンジャブ州と(入札を経て)契約を結びました。私が勤務していた2010年から2011年は、1年間に50台から460台へと規模が拡大した急成長の年でした。 

私も北部のパンジャブ州で新規オペレーション立ち上げを担当し、実質2か月程度で救急車90台とコールセンターを稼働させました。社員もオフィスもないところから、500人規模のオペレーションを短期間に始める。(日本でもこういうケースはあるのかもしれませんが、)個人的にはインドらしいスピードとスケールだと思った経験でした。
 

パンジャブ州の立ち上げプロジェクトは、パキスタンとの国境近くアムリッツアルで、
真冬に暖房もなく、テーブル一つでスタートした。

 

官民連携(PPP)で可能になったこと

まず、ZHLの経営。契約の内容は州政府ごとに異なりますが、初期投資(車両の購入や整備費、コールセンターの機器やソフトウェア購入)は州政府が負担しますし、稼働後は救急車1台あたり毎月いくら、という取り決めで運営費が支払われますので、受託企業の収益およびキャッシュフローはだいぶ向上・安定します。(州政府からの支払いが遅れる、というリスクはあるようでしたが。)当然ながらオペレーションの効率が上がれば収益がさらに向上するので、企業努力が促進されます。

 

さらに、「108」では(州により若干違いはありますが)利用者負担はゼロまたは最小限に抑えられているため、「だれでも利用できる救急車サービスを提供する」という設立当初からのミッションにも、より近くなりました。実際、ZHLに投資しているAcumenがGrameen Foundationと共同で行ったサンプル調査によると、利用者の平均76%が1日2.5ドル以下で暮らす貧困層だったということです(オリッサ州とパンジャブ州のデータ)。しかもパンジャブ州では3分の2が女性、半分以上が妊婦・新生児に関する出動でした。

 

汚職・賄賂は絶対NO!

インドでは汚職や賄賂はつきもの。例えばパンジャブ州での立ち上げの際も、救急車の車両登録時に役人が賄賂を求めてきました。一台当たり1000円にも満たない額ですが、額の大小に関わらず、絶対賄賂は渡さないのが会社の方針。毎日担当者が役所に出向いては、「賄賂をくれ」「いや、渡さない」の問答を続けました。登録期限が切れるまであと数日。州政府にコミットした稼働日までも日数がありません。役人もこうした事情を知ってか粘ります。

ここで「仕方ない」と賄賂を渡すのがよくある光景なのかもしれません。でもZHLはクリーンな姿勢を徹底的に貫きます。「絶対賄賂は払わなくていい。どうなっても心配するな。」社長・取締役揃って担当者にエールを送り、そしてとうとう期限切れ前日、役人が折れました。

 これは現場レベルのエピソードで、州政府と契約するのとは少し次元が違います。それでも、公共事業の一翼を担うから(あるいはそのために)、役人や政治家と一緒になって賄賂や汚職をよしとする必要はないのだ、と考えされられた出来事でした。 
 

納車されたばかりの救急車。
 

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著者プロフィール


 

    藤田周子(ふじた ちかこ)
    Arc Finance プロジェクトマネージャー

 

 外資系コンサルティング会社、国内電機メーカー勤務後、NPO法人にてインド無電化農村地域へのソーラーランタン普及支援。その後、アメリカ・インド・アフガニスタンのインパクト投資・BOPビジネスの最先端で現場経験を積む。2012年より米国法人アーク・ファイナンス所属。貧困層のエネルギーアクセス向上に、ファイナンスの仕組みを活用する。現在は、主にマイクロファイナンス機関が、ソーラーランタン等クリーンエネルギー製品目的の貧困層向け小口ローンを開発・展開するのを、農村調査から事業設計、テスト販売まで幅広くサポートしている。デリー在住。

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