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今インドのEコマースが熱い

コラム「インドの上にも10年」 vol.5 

 今インドのEコマースが熱い
 Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
 荒木 英仁
 2015年2月10日

 

        

  

 経済産業省が2014年8月に発表した「電子商取引に関する市場調査」によると、2013年の日本の”B to C” EC市場は前年比17.4%増の11兆1,660億円であった。楽天、AMAZONやYAHOO等の大手専業ECにとどまらず、ZOZOTOWNやじゃらん等の専売サイト、中小のネットショップや企業が直接Eコマースを活用する事がごく当たり前の現象となっている。それでもまだ全商取引の3.7%程度である。

 小売業界の大半がパパママショップの小売店でまだまだ発展途上のインド。そんなインドでEコマースが小売革命を起こしつつある。昨年ソフトバンクの孫社長がインド大手専業ECのSNAPDEALに約650億円の投資を発表したのは記憶に新しいが、今インドのEコマースが熱い。

 2007年度は3,900億円程度であったインドのEC市場規模は6年後の2013年度には1兆3,000億円にまで成長した。年間35%内外の伸長率である。この内約46%はデリーやムンバイに代表される8大メトロで占め、残りの54%がその他のTier 2や3の都市部での商取引で成り立っている。2013年度は3,331都市でEコマースが導入されており、特筆すべき点はそのうち1,267都市は地方都市であるという点。ロジスティックにまだまだ問題が多く、地元のお店では手に入らないような商品が簡単に入手出来る魅力が大きいことから、このセクターはまだまだ伸長の余地が十分に残っている。英語が公用語になっているものの、地元の言語しか知らない消費者の多くがアクセス出来る様に、各サイトがヒンディー、マラティー、テルグ、タミル等各言語のサイトを用意している事も市場拡大に繋がっていると言えよう。


(出所:Digital Insight)

 

 このEコマースの快進撃を担っているのが携帯電話(含むスマートフォン)である。今やインドも階級、職業に関係なく一家に一台では無く、一人に一台携帯を保有する時代に入っている。2011年には携帯保有者数が9億を超え、その内3億程度がインターネットに繋がっている。そして2015年度には保有者数が12億に達し、ネットに繋がるユーザーの内1億人程度は3Gや4Gの高速ブロードバンドに接続されると予測されている。2011年のインターネット接続の方法別シェアで9%程度だった携帯電話が2013年度には58%となり、2015年には73%まで到達すると予測されている。
 


(出所:世界銀行、IAMAI、Aranca Researchのデータをもとに作成)

 

 保守的でバーチャルの商取引を信用せず、あまり積極的になれなかったインドの消費者を引き付けたのは、各社が導入した返品保証サービス(購入後7~30日)である。これによって手に取って気に入らない場合は返品しお金が戻って来るという安心感からアクセスが急増している。

 そして日本ではクレジットカード決済が当たり前ではあるが、金持ちほど現金決済を望むインドでEコマースを後押ししたのが、COD(Cash on Delivery)着払い決済の導入である。カード情報の開示を嫌がるインド人や、現金でやり取りしている限りどこにも証拠が残らないという心理的安心感が大きい。
 LOUIS VUITTON、BOTTEGA、ARMANI、ZARA等で日頃ショピングしている金持ちインド人を観察していると良く分かるが、大人買いしている人ほど、例外無く全ての支払いを現金で済ませている事が分かる。これでインド政府が税金徴収に苦労しているのも少し理解出来るような気がする。

 インドには現在電子商取引のウェブサイトが4,000程あるが、その内の約70%は旅行サイトである。アマゾン等に代表される小売市場は未だ15%程度なので伸び代は計り知れない(2013年度)。今後市場拡大が期待されるインドのオンライン小売市場(e-tailing)は現在大きく分けて2つのビジネスモデルが存在する。
 1つは楽天やeBay等に代表される仲介ビジネスである。これは買い手と売り手の中間に位置しバーチャルな市場を提供するモデル。そしてもう一つはAMAZON等に代表されるように会社で在庫を抱え、品質、配送等もコントロールするモデル。どちらのモデルも成功事例があるので、現時点ではインド市場にどちらが向いているかの判断は難しいところであるが、主観的に見ると後者のビジネスモデルが優位な感じがしている。扱われる商品は日を追う毎に多種多様となり、今や大概の物はオンラインで購入出来る様になった。

 

 
(出所:インドインターネット・モバイル協会調査)

 

  今のインドオンライン小売市場はインド人が立ち上げたFLIPKART、アメリカのAMAZON、eBay、ALIBABA・ソフトバンクが出資しているSNAPDEALの3社が頭ひとつ抜け出している。

 インド発FLIPKARTは2007年10月インド工科大学デリー校出身のバンサル兄弟によって設立された。当時のインドはオンライン小売ビジネス自体がまだまだ浸透しておらず、eBay India位しか無かったのは記憶に新しい。AMAZONで働いた経験を基に始めた事業は資本金100万円足らずでスタートした会社であった。AMAZONが設立当初そうであった様に、最初の2年間は本の販売に特化した。当初は在庫を持つ力も無かったので、オーダーを受けてから商品を仕入れ、自らの手で梱包し発送していた。その後、面白いようにビジネスが拡大し、それに伴い出資者も増え独自の倉庫もどんどん増やしていった。

 2008~2009年の営業利益が8,000万円だった会社が、3年後の2012年3月決算期には既に100億円の営業利益を叩きだしているのだから恐れ入るばかりだ。彼らが急激に成功したのは、1. ユーザーフレンドリーな見易く使い勝手の良いサイト作り、2.インドとは思えないような行き届いたカスタマーサービス、3.今では当たり前となったCOD(商品代引き)や返品保証(30日)というEコマースに馴染みの薄い消費者が使いやすいサービスを次々と付加していった点である。そして特筆すべき点は競争が激しくなった今でも75%の顧客がリピーター客であるという事。

 無論FLIPKART独り勝ち状態に対してAMAZONが黙っている訳も無く、2012年にインドに上陸。資本力を生かしどんどん勢力を伸ばしていった。その他SNAPDEAL等のインド地場の競合もじわじわと市場に浸透していき、今正にオンライン小売市場争いが熱を帯びている。2014年7月末にFLIPKARTが1,000億円の増資を発表すると、その翌日にはAMAZONのCEOジェフ・ベゾス自らがインド市場に2,000億円の追加投資を発表。そして前にも触れたが、その戦いに真っ向勝負を挑むTATA、ソフトバンク資本注入後のSNAPDEALと三つ巴の体をなしてきて目が離せない。

 2014年10月6日FLIPKARTが”BIG BILLION DAY”というオンライン小売史上最大の一日限りのセールスキャンペーンを実施した。(https://www.youtube.com/watch?v=R2g_6mukpQ8
 これは1日で10億ルピー(20億円)の売上を目指すという前代未聞の告知であった。TV、新聞、ラジオ、オンライン、ソーシャルメディアと消費者とのあらゆるタッチポイントで惜しみなく広告を打ちまくり、認知度は計り知れない程上がった。コストコンシャス(ケチ)なインド消費者がこんな凄いセールスを見逃す訳も無く、当日のサイトアクセスが異常な事となった。8時にセールスが始まったものの、10時頃から期待外れのディスカウントにお客からのクレームが殺到し、14時にはサーバーがクラッシュし、敢え無くこのキャンペーンは6時間で終止符を打つ事となった。結果としてソーシャルメディア、ニュースメディアで叩かれまくり、後日社長から謝罪の手紙が発表された程である。一時はネガティブPRとはなったものの、一躍インド中にFLIPKARTが認知された事は大きい。また結果的にはこの一日で6億円近くを稼いだのだから効果は十分であったと思われる。更にこの日ライバルのSNAPDEALは新聞に一面広告を一度打っただけで、同様の売上を上げたと言われている。正に漁夫の利である。ALIBABAのジャック・マー氏やのソフトバンクの孫さんがこんなスマートなSNAPDEALに惚れたのも分からないでも無い。


現地紙The Times of Indiaに掲載された
“BIG BILLION DAY”の広告

 一方、AMAZON INDIAは技術的、及びノウハウ的に本国や他国で築いたバックボーンを駆使し、インド最大のお祭りであるディワリ商戦で勝負に出た。ディワリの1週間の間、継続的に50%内外のディスカウント商品を目玉として並べ一大セールスキャンペーンを実施。流石にサーバーがクラッシュするようなトラブルも無く、認知度アップに大きく貢献した。勿論この時もSNAPDEALは2匹目のドジョウを狙った事は言うまでも無い。

 
SNAPDEALとAMAZONの広告

 2014年度のインドのオンライン小売市場規模は35億ドルに達し、小売業市場全体の4%を占める。更に競争が加速するであろう2015年度は70%程度の伸長が見込まれ、その規模は60億ドルに達すると言われている。更にインドの人口の60%は25歳以下である。ネットサビーの彼らが顧客になる日もそう遠くは無い。毎年60~70%の伸長を見せるオンライン小売業界から目が離せない。

 

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著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

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