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柔軟さが最大の強み?~インドビジネスの現場力

コラム「BOPビジネスの現場に見る、インドビジネスのこれから」 vol.5

「柔軟さが最大の強み?~インドビジネスの現場力」
 Arc Finance プロジェクトマネージャー
 藤田 周子
 2015年2月19日

 

 私がこれまで見てきたインドBOPビジネスの現場は、超がつくほど柔軟なスタッフに支えられていました。それは、直前まで物事が変わる、締め切り間近にどたばたする、ということの裏返しでもありますが(笑)。

 インドで運転するときのコツは、前だけを見て流れに乗ることだといいます。日本のように前後左右すべてに注意を払って、安全を確認して、それから前進・・・なんて、カオス状態のインドの路上では無理ですよね。各自が目の前だけに集中して、前の車の急ブレーキやら、割り込んでくるオートリキシャやらをうまくかわしていくと、不思議とちゃんと流れていく。ビジネスの現場にも通じるものがあると思います。


インドの路上ではヤギの群れに遭遇することもある

工事遅延。そのとき現場は・・・

 例えば、前回ご紹介した、パンジャブ州での救急車サービス立ち上げ直前、ちょっとした事件がありました。州政府にコミットした稼働開始日10日前、コールセンターの工事が全く進んでいないことが発覚したのです。何しろ建物の工事が終わっていません。かろうじて窓ガラスは入っているものの、壁も床も完成しておらず、鉄筋の骨組みが見える箇所さえあります。工事を終わらせた上で、机・椅子などを運び入れ、配線工事をして、サーバー・PC・電話を設定し、さらにコールセンタースタッフの研修をやらなければいけないというのに。研修だけでも1週間は必要なのに、果たしてすべてを10日でできるのか?

 その日の晩、私たち数人はプロジェクトルームに集まりました。私は「研修なしで稼働するわけにはいかない。間に合うわけがない。さっさと延期を決断したほうがいい」と主張。ところがインド人の同僚たちは、動揺してはいるものの、諦めていません。やがて誰かが言いました。「この部屋に何人入るかな?」

 翌日、プロジェクトルームは研修ルームへと変身しました。これまで4-5人で使っていた部屋に、なんと25人がすし詰め状態で座ることに。パソコンはスペースの都合上3人で1台。気温35度の中エアコンも扇風機もありませんが、そこは我慢!


即席の研修ルームでコールセンタースタッフのトレーニング

ソフトウェアはバグだらけ?

 そうこうするうちに工事も終わり、コールセンターは予定通りの期日に「108」の救急電話を受け始めることとなりました。一安心、と思ったのも束の間、まだまだ驚きの日々は続きます。

 なんと、コールセンターのソフトウェアがバグ(エラー)だらけだったのです。例えば、コールセンターではGPSで救急車の最新の位置情報を把握しています。救急電話を受けると自動的にもっとも近くにいる救急車に出動要請が送られる・・・はずでした。しかし実際には全然違う場所にいる救急車が選択されてしまうことが続く始末。(幸いコールセンターのオペレーターが気づいたので事なきを得ましたが。)

 最初、私は「こんな品質は許しがたい。ありえない!大問題だ!」「こんなベンダーとは付き合えない!」と毎日血圧の上がる思いをしていましたが、やがて根本的にアプローチが違うことに気づきました。

 日本でITシステムのプロジェクトに携わっていたときは、何度も何度もテストをして限りなく100%の完成度に近づけてから、運用を始めていました。ところが、インドでは50%程度の出来でもいいからまずスタートする。そして使いながら修正し、じわじわと完成度を上げていきます。稼働後数か月後に完成すれば良し、との姿勢のようです。ユーザ側もマニュアル作業・人海戦術には慣れたもので、多少(というか多くの?!)不具合があっても業務をこなすことは可能というわけです。 

 これはITに限らず、現在携わっているソーラーランタンのような物品の販売やファイナンスでも同様です。業務は大まかなところだけ決めて、まず始めてみる。その後1年くらいかけて、いろいろ試行錯誤しながら最適な方法を見つけていく。時間がかかるように感じますが、いったん最適な方法を確立できれば、そのあとはマニュアル化して、猛スピードで拡大していきます。

最初から完璧である必要なんてない。先が見えなくても、失敗しながらでも、前に進み続けること。

これもインドでインドの人たちと働く魅力かもしれません。

 

 

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著者プロフィール


 

    藤田周子(ふじた ちかこ)
    Arc Finance プロジェクトマネージャー

 

 外資系コンサルティング会社、国内電機メーカー勤務後、NPO法人にてインド無電化農村地域へのソーラーランタン普及支援。その後、アメリカ・インド・アフガニスタンのインパクト投資・BOPビジネスの最先端で現場経験を積む。2012年より米国法人アーク・ファイナンス所属。貧困層のエネルギーアクセス向上に、ファイナンスの仕組みを活用する。現在は、主にマイクロファイナンス機関が、ソーラーランタン等クリーンエネルギー製品目的の貧困層向け小口ローンを開発・展開するのを、農村調査から事業設計、テスト販売まで幅広くサポートしている。デリー在住。

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