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国民的英雄モディ率いるインド人民党を打ち破ったデリーのカリスマ

コラム「インドの上にも10年」 vol.6

 国民的英雄モディ率いる
インド人民党を打ち破ったデリーのカリスマ

 Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
 荒木 英仁
 2015年2月24日   

 

 今回は趣向を変えて少しインドの政治について触れてみたい。2014年の下院(Lok Sabha)総選挙で現国家首相モディ氏率いるBJP(インド人民党)主体のIDA(国民民主連盟)が過去10年間続いたINC(国民会議派)主体のUPA(統一進歩同盟)政権を倒し、543議席中圧倒的多数の336議席を確保(その内BJP単独でも過半数を超える283議席獲得)し、モディ新政権が設立したのは記憶に新しい。

 その後上院(Rajya Saba)の議員選任に大きく関与する州議会選挙においても、マハラシュトラ州(インド最大の金融都市ムンバイがある南西部最大の州)やハリアナ州(多くの日系企業が集積する振興都市グルガオン、マネサール等を有する州)でもモディ旋風が吹き荒れ、BJPが圧勝を重ねて来たのは周知の事実である。そんな中、インド国民が皆注目する中、インドの首都デリーにて2月7日にデリー州議会選挙が実施された。

 


マハラシュトラ州、ハリヤナ州議会選挙の結果

 

新庶民党AAPの設立経緯

 2015年度の選挙の話の前に、まず2013年度に実施されたデリー選挙のおさらいをしてみたいと思う。当時は威力を誇示しつづけていたINC(国民会議派は15年間に渡り首都与党であった)に陰りが見え始め、政治家の汚職が各メディアでクローズアップされていた。そんな中、インド各地で盛り上がりを見せた汚職撲滅運動の指導者的立場で知名度を上げたのが後のAAP(Aam Aadmi Party: Common Man Party: 庶民党)の党首アルビンド・ケジリワル氏である。彼の経歴は変わっている。インド最大の財閥企業TATAで技術者として働いた後、税務署に転職、後に一般市民が正当な権利を持てるように不透明な国営企業(税金、水道、電気等)の情報開示を求めるNGO団体PARIVARTANを設立。彼がこのように腐敗政治に挑戦する活動家になった大きなきっかけは、仕事で悩んでいた時期に出会ったマザーテレサといわれている。

 そして2013年、横行する汚職を一掃し、市民の為に活動する政党AAPを立ち上げ2013年度のデリー州議会選挙に挑んだのである。結果、彗星の様に現れた新党が70議席中28議席とBJPの32議席に次ぐ快挙を成し遂げたのである。この時第1党ながら過半数に達しなかったBJPが政権樹立を辞退したのを受け、ケジリワル氏は州知事となるものの、汚職撲滅を目的とした法案 Ja Lokpal Bill(汚職オンブズマン設置)が議会で却下されるやいなや49日で辞任を決意したのであった。以来首都圏は州知事不在で大統領直接統治が続いていた。49日間という短い任期ではあったが、当時の電気代を約50%カットするなど、この時ケジリワル氏が市民に与えたインパクトは十分だったと思われる。また、辞任後に市民に向けて謝罪の弁を述べた事も一層支持基盤を強固にしたと言われている。(インドでは歴史的にも謝罪する政治家は皆無に等しいと言われている)。その後一時は果敢にも国政に挑んではみたがMODIの威力には歯が立たず惨敗。そして今回のデリー州議会に再挑戦したのであった。

 

AAPの草の根選挙戦略

 2015年のデリー州議会選挙は、モディ旋風に後押しされるBJPと低所得者層に圧倒的支持を受けるAAPとの一騎打ちとなった。過去10年間もの間国政を担い、デリーでも圧倒的な力を誇っていたINCは、今や影も形も無い。選挙活動においてもこの2つの政党は大きく戦略が異なっていた。

 AAPは大手広告代理店も起用せず、全て党員が戦略を策定。マスメディアを多用せず、屋外広告やソーシャルメディアを匠に使い、2013年同様汚職撲滅を目玉に光熱費の負担削減を全面に押し出すキャンペーンを長期に渡り展開。下院総選挙で結果が出せなかった後は、2014年のうちから草の根活動として地道に党員みずから積極的に各地の集会所、公園に出向き支持を増やしていった。

 一方、BJPは当然の様にキャンペーン戦略・メディアプラン共に大手代理店を起用。積極的にTVや新聞を活用し「モディ人気」を全面に押し出した。選挙日数カ月の時点の各メディアの人気調査によりAAP有利という報道がされた頃から、BJPの足並みが崩れだした。想像以上にケジリワル氏の支持が高かったのである。慌てた党幹部はモディ氏の指示により、デリー党首候補として元警察幹部でケジリワル氏の汚職撲滅キャンペーンにも参加していた経験のあるベディ氏を打ち出した。しかしこの時、既に選挙日一か月を切っており、デリーのBJP党員からも目立ったサポートを受けずまま、モディ氏との2大看板体制でキャンペーンの進路を急遽変更した。

 そしてBJPの戦略がAAPと決定的に違っていたのは、AAPが常にデリー市の関心の高いトピックに終始したキャンペーンだった事に対し、モディ人気とケジリワルに対するネガティブキャンペーンに終始した事であった。

 


2013年&2015年のデリー議会選挙結果比較

 

デリー州議会選挙当日

 そして2月7日の投票日を迎えた。得票率67.1%と日本の選挙とは対照的な関心度の中で各メディアはAAP優勢と発表した。2月10日に選挙結果が決まった時はAAP幹部すらも予想しなかった様な歴史的な大勝を収めたのである。70議席中67議席を確保したのである。BJPはかろうじて残りの3議席しか取れなかった。何故この様な事になったのかには色々な説があるが、データから推測するに、BJPの支持者が減ったというよりは、以前INCを支持していた層が軒並みAAPに投票したという事が大きいと思う。勿論この中にもヒンズー至上主義と言われるBJPを嫌ったイスラム教徒有権者の多くが含まれていた事は言うまでも無い。国政の際はモディ氏が率いるBJPを推したデリー市民も、いざ自分達の身近な事となるとAAP側に付いた結果となった。多くのデリー市民が前回49日間で殆ど何も出来ずに終わったケジリワル氏に再度賭けてみて、もしかしたら本当に汚職撲滅への一歩が本当に始まるのではという期待感の表れであったと推察する。

 勿論、AAPが今回マニフェストで公約した中には、電気代を一律50%カットする、各家庭に毎月ただで20,000リッター供給する、公衆便所を20万か所に設置する等、現行デリー予算では実現不可能なものも含まれており、今後この公約をどの様な形で実施していくかは見物であるし、新生デリーAAP政府の動向はインド全土の注目となるであろう。そして、それが今後のその他の州議会選挙にどう影響していくかはとても興味深い。 

 

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著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

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