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インド赴任の憂鬱

コラム「インドの上にも10年」 vol.7

 インド赴任の憂鬱
 Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
 荒木 英仁
 2015年4月28日   

 在インド日本国大使館によると、2014年10月現在の日系企業数は1,209社(前年比13%増)、拠点数は3,961拠点(前年比56%増)と、相変わらずインドを目指し、拡大する日系企業は後を絶たない状況である。単に中国に次ぐ製造拠点としてだけでは無く、中間所得層が勢い良く伸び続ける消費者市場としても、多くの日系企業の注目の市場である事は間違いない。更に今後のビジネス展望を中東、アフリカ市場においている企業にとっても、印僑が商流を司るこれらの市場戦略には欠かせないリージョナル拠点と成り得る国である。
そんなポテンシャルが高い国インドで何故日本企業が成功していないのかは、前のコラムでもマーケティング戦略の上で、韓国企業との比較で少し触れているが、今回はこのテーマをもう少し掘り下げてみたいと思う。

 2003年春にスタートしたインド詣でから今まで12年余りの間、インドに進出するあらゆる産業の日系企業(大小問わず)の経営者達(カントリーマネージャー)と交流を図ってきた中で気が付いた点が幾つかある。勿論、私見である事は間違い無いが、インドビジネスを遂行する上でこれらの事柄に気を使って実施すれば、コストをかけず、時間も短縮した上で、もう少し良い結果を出せるのでは無いかと考える。そんな中で、今回のコラムではインドのカントリーマネージャーに焦点を当ててみたいと思う。

 

多くの日系企業にありがちなカントリーマネージャーの人選

 前にも触れた事はあるが、インドという国は面積も大きく、人口も多い。東西南北で話す言葉も違い、文化、宗教、慣習も違い、見るテレビも違い、祝日さえ違うというEU連合の様な国である。

 日本も世界に類を見ない様な特殊な市場であるが、ある意味インドも負けていないと思う。しかし、多くの日系企業はこの市場特性を良く理解した上で、インドのカントリーマネージャーを選定し、派遣していない様に思える。

 これは日本のメディアの影響も大きいとは思うが、海外赴任先としては、今でも最も人気の低い国である。結果として、企業内で希望する人は異様に限られる。私が以前所属していた社員2,000名強の企業ですら、当時1人いたか、いないか程度である。企業がこのような希少な人材を派遣した場合、モティベーションは高いが、インドという特殊な市場で切磋琢磨出来る様なタフさを持ち合わせておらず、任務遂行の適正度が低い場合が多い。

 一方で、多くの企業が人選して送られる場合に見受けられるのは、適正があるのだが、モティベーションが低いという点。過酷なインドという事で任期を3年以内に設定しているという会社が多く、結果として無理せず任期を全うして帰国を望む様になる。3年我慢して可もなく不可も無くで過ごせばと思っている様な方を見受ける事は意外と多い。最近はそれ程でも無いが、私が赴任した2005年当時は、カレンダーに毎日X印をつけて、後何日で帰国出来ると、まるでインドという刑務所に入れられた人が出所を待ちわびる的な光景に何度も遭遇した事は記憶に新しい。

  この様にカントリーマネージャーがインド市場に慣れた頃に帰国するという事を繰り返した結果、ノウハウの蓄積があまり無く、日本人トップが変わるたびにリセットが繰り返されている日系企業が多い様な気がしてならない。先進国に比べ、ただでさえ色々な事がスローに動くインドでは、3年交代のロジックは全く機能しないと思う。

  自分自身も前の会社で最初に言われたのはマックス3年で良いから、誰もやりたがらないインドを頼むと。私も最初はインドがいやで仕方無かった。今でこそ私の住むグルガオンは日本人駐在員が3,000人を超え、高速道路も整備され、メトロが開通し、空港も近代的になり、日本食レストランも多く、日本食材店も複数あるようになり、生活は格段向上したものの、当時はこれらが何ひとつ無くストレス共和国みたいな国であった。私の場合は、たまたま長男がインドで生まれ、2年過ぎたあたりから業績も伸び始め、仕事が面白くなったので結果として9年近く赴任し続けたのだが、これはインドでは超レアケースだと思う。今のインドの日本商工会メンバーの中で私より長く連続してインドにいる方を見受ける事は殆ど無い。

 この超特殊な市場に慣れるのにそれ位はあっという間に時間が過ぎてしまう中で、任されたカントリーマネージャーも、長期に渡る戦略を立てようが無い。限られた任期中のリスクは最小限に抑えたいと考えてしまうのは仕方無い事であるのも十分理解出来る。がしかし、彼らは本社の代表としてインドを任されている訳で、彼らが現地の事情をきちんと把握し指針を発信しない限り、本社も戦略を立てようが無く、インドでの事業成功の道はあり得ない。

 私の場合もそうであったが、インドはアジアの一部(アセアン、中国に代表される)でこれらの国で経験を積んだ人間が最も適正があると認識している本社の人事部が多い。事実、今でも数多くの駐在員達はアジアからの横移動組が大半を占める。しかし、インドはアジアであってアジアでは無い。勿論シンガポールや香港の様に英国領から独立したという慣習や法律面で共通点は多くあるものの、住んでいる人種が全く違う。ここは中国系民族が主要ビジネスを牛耳っている他のアジア諸国とは全く異質な国なのである。見た目も違えば、宗教も違う。話す言葉も多種多様である。当然考え方もビジネスの進め方も違う。他のアジアで通用する常識は、全く通らないのである。

 

インドビジネスに適した人材とは

 ここで、私なりに思うインドビジネスに適したカントリーマネージャー象に少し触れてみたいと思う。 何より大事なのは体力。多くの日本人駐在員は集中するデリーNCRの年間気温差は50度近い。更に、活力の源となる食生活もその他のアジア諸国に比べると圧倒的に選択肢も少なく寂しい限りである。こんな過酷な環境で仕事をする為には、健康で強靭な体は必須であると考える。

次に順応性と柔軟性。とにかくインドは何事も予定通りには進まない。そんな時にパニックに陥らず柔軟に対応する能力が求められる。インドでは日本人の常識はあまり通用しない。また、世界のコモンセンスも通用しない。こんな不条理な社会で上手く立ち回る為には、悪く言えば鈍感、良く言えば何事にも動じない強い気持ちの持ち主である事が望ましい。

 そしてコミュニケーション能力。通常インドビジネスは英語ベースであるので、ある程度の英語力(会話能力だけでは無く、契約書等をある程度は理解出来る読解能力)が必須である事は間違い無いが、ここで大切なのは意思を論理的に伝える能力の事である。
インド人は推して知るべし的な事は一切期待しない方が良いので、何度でも納得の行くまで根気よく説明する力が求められる。良く見受けられるのは、このプロセスを途中で諦めて、インド人だから仕方無いと決めつけてしまう事。優秀なインド人程、自分が納得出来ないと成果を出さないものである。結果として、日本人経営者とインド人社員の間にどんどん深い溝が生じて会社としても成功には程遠くなってしまう。

 最後に大事な事は、いつまでも全てにハンズオンでは無く、自分が選んだインド人社員を信じ任せる気持ちを持てる資質があるかどうかである。

 日系企業の社員として雇用するインド人スタッフ、マネージャー達が、他のアジアと著しく違う点は、日本人(経営者であっても)に対する憧れ、リスペクト等は一切持ち合わせていない事である。高い教育を受けているスタッフも多く、プライドが高く、論理的(理屈っぽい)な人も多い。故に明確にビジョン、戦略を説明しないと黙って付いて来る社員は少ないと思う。

 勿論、ある程度ブランド力のある企業の場合はキャリアに箔をつける為に就職して来る場合もあり、割り切ってYES MANに徹する社員がいない訳では無い。

一方で多くのインド人は結構浪花節で、一度信頼関係を築くと、損得勘定抜きで、会社の為に頑張る社員も沢山いる。そういう社員が増えればインド現地法人の発展もそんなに難しい事では無いと思う。

 日本で成功している外資系の企業の経営は殆どのケース日本人が執行している。それを踏まえればもっと簡単に理解出来る理屈だと考える。

 この様にインドという特殊な市場をもっと良く理解し、派遣社員の適性と任期をもっと良く熟慮し、カントリーマネージャーの人選を再考案する事がインド戦略成功への近道と考える。

 

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著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

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