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嘘はついていないんです

コラム「違いは前向きに考えてみる」vol.2

 嘘はついていないんです
 Xroad Solutions Private Limitedの代表取締役
 佐々木克仁
 2015年5月19日   

 インドに行って現地の人と付き合い始めると、「嘘をつかれた」「騙された」と思うような出来事が起きます。もちろん、日本にも海外にも悪い人がいて、本当に騙されることもありますが、多くの場合は文化や習慣、価値観の違いを理解せず、誤解したまま物事が進んだ結果だったりします。

街角での日常

 例えば、こういうことがありました。

 顔写真が必要だったので、マーケットにあるフォトショップで写真を撮りました。デジタルカメラの普及により、インドでも写真を撮ったら、パソコンに取り込んですぐに印刷できます。ただ、顔写真を並べて印刷した写真をカットするのはハサミによる手作業だったりします。私がどれくらいで写真をPrintout(印刷)出来るか、時間を店員に聞くと、店員は10分もかからないと言いました。せっかくマーケットに来たので、その10分で買い物をしようと先に支払いを済ませ、私は買い物をしました。10分過ぎに店に戻ると、まだ写真のカットが終わっていないという。カットにどれくらいかかるか聞くと、5分かかると言うので、マーケットのトイレに行くことにしました。トイレから戻ってきて、店員に話しかけると「これから切るから5分ぐらいかかる」と言われました。そんな話をしている私の横で、私より後に来たお客が写真を受け取っていました。私は「自分は彼女より先に来たのになんで、私の方が遅いのですか?」と聞くと、店員は「彼女は出来上がるまで待っていた」と答えました。店員は私に嘘をついたのでしょうか?

 私と店員の考えを整理します。

「10分でパソコンに取り込んで、印刷して、カットまで終わるから、10分後にはすぐ受け取れる」
店員「10分はパソコンに取り込んで、印刷する(Printout)時間で、すぐするとは約束していない」
店員「5分は写真をカットする時間で、すぐするとは約束していない」
店員「男性客(佐々木)はいつ帰ってくるかわからない。待ってくれている女性客は急いでいるのですぐにやろう」

 確かに私はPrintoutにかかる時間は何分か聞いただけで、10分後に受け取りたいからそれまでにカットまで終わらせるよう依頼していませんでした。私は状況が理解できてとてもスッキリしました。そして、次からは私が受け取れる時間を聞き、店を離れずにその場で待つようにしました。

 前述のような出来事は私に限ったことではありません。私がインドで仕事をするようになって気付いたのが、日本人は何かをする前から多くの共通認識や経験、情報を持っていて、少ない言葉(場合によっては言葉も不要)で過程や結果を理解できるということです。サッカーのアイコンタクト(目でサインを送って次のプレーに繋げる)みたいな感じです。

スイカ割りを知っていますか?

 また例えを出しますが、砂浜にスイカが置いてある写真があるとします。日本人の多くはこの写真を見て、”スイカ割り”を想像し、目隠しやスイカを割る棒、スイカを割った後みんなで食べるイメージなども連想します。テレビやインターネットの普及により、海で遊んだことがない人でも、日本人の多くはスイカ割りのイメージを持っているはずです。海外の人にこの写真を見せたらどうでしょうか?

「誰が、このスイカを捨てたのだろう?」
「こんなところにスイカを置いていたら盗まれるかもしれない」
「この緑に黒の模様の丸いものはなんだろう?」
「海から流れ着いたのかな?」

 日本と違い同じ国でも色々な想像が出てくるはずです。もちろん、その国特有の文化などは、日本人から見れば想像できないものもありますが、日本ほど国民全体が共有しているものが多い国は(人口が多い国の中では)珍しいと思います。

 なお、断っておきますが、「だから日本人は他国の人より優れている」という気持ちはありません。この日本の「言わなくても分かる、1言えば10分かる」という感覚のまま、海外でビジネスをしようとすると、部下やパートナー、上司が無能に見えてしまうという恐ろしい状況になります。何が恐ろしいかというと、誰と仕事をやっても上手くいかず、原因の全てを自分のイメージ通りに仕事ができない相手のせいにしてしまうので、人間関係も悪化し、ストレスも溜まるという悪循環に陥ってしまうのです。

一緒に確認し、公平に評価していく

 私は会社を立ち上げて、インド人のサービス業者と一緒に仕事をする時は、最初にそのサービスを自分個人か、自社にさせて、大丈夫と判断したものだけを提供してきました。寧(むし)ろ初期の頃は自分が生活で困ってサービスを受け、良かった会社や個人を自社の通訳者付きでお客様に紹介するような形でした。ある電気技師の方は時間を守り、仕事も丁寧なのですが、作業の後の掃除をしなかったので、お客様での作業の時は清掃までできるか確認し、後片付けまでやってもらっています。

 ここでポイントなのが、標準費用の中で後片付けまでさせるのではなく、後片付けは追加の作業として費用を払うことです。良心的な業者であれば、元の費用も高くないので、追加の費用を払っても大きく変わることはありません。そして、相手も気持ちよく作業をしてくれます。

 さて、費用の話がでましたのでその流れで続けますが、人件費が安いからという理由で、インド進出を検討することもありますが、そもそも何故日本より人件費が安いのでしょうか?単純に物価が安いからと言ってしまえば、それまでですが、物が安いにも理由があって、食品の安全性や建物の設備などの品質を比べると、その差は明らかです。私がインドで日本並みの生活をしようと思ったら、日本よりも家賃や食費がかかってしまいます。

 私としてはインドでも日本人に対して日本と同じ品質を提供できるのであれば、日本人と同じ待遇(海外勤務手当や福利厚生などは除く)を与えたいと常々思っています(まだまだ道半ばですが)。そして、できれば彼らの生活水準を引き上げて、インドに住む日本人と近い生活をする(共通経験を持つ)ことで、もっと良いサービスに活かして欲しいと思っています。もちろん、弊社は日本人向けのサービスを提供しているからであって、インド人向けのサービスや製品の生産などに携わる場合は事情も違ってくるので、この想いも選択肢のひとつと思っていただけたら幸いです。


著者が経営に関わるデリーのマンガカフェにて

 

海外の人材に期待し過ぎていませんか?

 企業において人事関係は非常に苦労します。

 働き始めた新卒の社員が無断遅刻や欠勤が多く、仕事も期日までに終わらせない、「よくこれで大学を卒業できたな」というぼやきがあちこちで聞こえます。学歴社会と言うよりも、最低限の一般教養を身につけている、それなりの家庭環境で育っているという基準で大学を卒業しているかどうかを気にし、その次にどこの大学を卒業しているか(有名大学か)を確認しますが、それだけで十分でしょうか?

 インドは教育に力を入れており、例えばサービス税にも更に教育税という税金がかかっていて、多くの国民が教育を受けられる環境を作ろうとしています。大学を卒業し英語を話せる、パソコンが使えるということはそれだけで就職の幅を広げ、収入額を押し上げます。しかし、学びたいという国民の要望に対し、学校の数が足りていないという現状があります。その結果、インドの大学生のおよそ3分の2が通信制であり、通信制の学生は試験の時以外はキャンパスに通わずに過ごします。

 先ほど、無断欠勤や欠席、仕事が期日までに終わらないと書きましたが、キャンパスに通っている学生は、出席率や課題の提出状況などが日本と同じく単位取得に大きく影響しますので、卒業するためにはちゃんと出席し、課題を順次仕上げていきます。本人の望む望まない関係なく、そういう環境で社会性を身につけていきます。それに対し、通信制の場合は、テキストを基に自宅学習し、定期テストの結果が全てです。これは通信制が良くないという話しではなく、通学制に比べて社会人として必要な習慣を身につける外部要因が少なく、その家庭や個人の資質に頼る状況になっているということです。弊社のインド人マネージャーは通信制を卒業していますが、時間や約束を守ることにはとても気を配ります。彼の家庭は時間や約束を守ることを重要視し、子供にも厳しく躾をしてきたからです。通信制にはメリットもあって、日本と同じく費用が安く済むだけでなく、学びながら働くことができます。

 面接の時は通学制と通信制どちらだったか?そして、通信制なら、学業以外にどういうことをしてきたかを聞いてみるのも良いと思います。

 

自信がある人が有能とは限らない?

 また、インドでは転職は一般的で、即戦力として中途採用も多いです。 前述のような状況のため、新卒よりも一度社会に揉まれた中途採用を積極的に採用しているところもあります。

 転職者を採用する際はどのようなことに気をつけるべきでしょうか?まず、自社ではないといけないという明確な志望理由がない場合は、ステップアップのための一時的な腰掛けとして考えており、良い条件の転職先が見つかればすぐに再転職してしまうと思います。とはいえ、インド財閥の親会社や有名なグローバル企業などではない限り、本当の志望理由は言わないかもしれません。

 これまでの経験上、短期間(1年未満)で同じ業種で会社を次々と変えている方は、あまり高い技能を持っていない可能性が高いです。「~~という大規模で高度なプロジェクトに参加していた」と言われることがありますが、指示を受けて荷物を運ぶだけの仕事をしていてもプロジェクトには参加していたと言えます。履歴書には参加したプロジェクトだけで、役職や実際に行った業務内容が書いていない場合は面接する側からすると情報不足で、今後も不安です。また、業種を次々と変えている方は、スキルのレベルよりも人間性に問題があり、不正を行ったり、業界に居られないような問題を起こしている可能性や自分を客観視できず、いつも他人や環境のせいにして逃げてしまう性格の持ち主かもしれません。

 昔務めていた会社で、インドでITの人材サービスをしていた時の面接でこういう人材(A氏)に会いました。その時はとあるITシステムのプロジェクトマネージャーを探していました。

「あなたが過去に担当したプロジェクトで起きた問題とその時どうやって解決したかを教えてください」
A氏「私の担当したプロジェクトは問題を起こしたことがない」
「では、問題が起きないようにどのような工夫をしていましたか?」
A氏「優秀なスタッフと最高の機材、潤沢な予算があれば失敗することはない」
「あなたは優秀なスタッフを見つけたり、最高の機材を見つけて調達したり管理する能力に優れているのですね?」
A氏「いや、それはあなたの仕事だろう」
「では、あなたは何ができますか?」
A氏「プロジェクトマネージメントだ」
「どうやってプロジェクトマネージメントしますか?」
A氏「ミスター佐々木、君は英語が不得意のようだね。私はプロジェクトをマネージメントできると言っているんだ」

 その場には通訳の方もいて、日本語からヒンディーに通訳してもらっても回答は変わりませんでした。こういうことは良くあります。「餅をどうやって作りますか?」と聞いているのに「これは餅だ」と言われるような感覚です。

 インド人は苗字でカーストが分かりますが、通訳者曰く、Aはかなりカーストの高い方で、更に通訳者のカーストの方が低く、通訳者からこれ以上深く質問してもあまり意味が無いと言われました。

 少しフォローすると、こういう人が会社を動かしている場合も結構あります。議論を廃止し、上位者の言うことを聞いて、すぐに行動を起こすのはメリットもあります。
ただ、インドに今までなかった良い物をこれから提供していこうと考えている会社にとっては、こういう人が社内に入ってくると、社員の意識改革ができず社内が硬直してしまう可能性もあります。

 採用をインド人だけに任せず、日本人も参加して一緒に履歴書や条件に対して細かく確認していくことはとても大切だと思います。細かい具体例を出せると言うことは、それだけ周りを注視し考えているということです。ただ、全員に対して時間を掛けていてはいくらあっても足りなくなりますので、採用の可能性がないと判断したら、すぐに切り上げることも必要です。

 

インドは欧米(英語圏)寄り?

 さて、ここまできて酷い結末なのですが、インド国内で知名度のないこれから進出しようとしている日本の企業に積極的に入ろうと思う人材は一流(即戦力や期待以上の成長をする)ではないことが多いと思います 。日本人がインドの知らない部分が多いように、インド人も日本のことをよく知りません。よく知らない国の知らない名前の会社に入りたいと思う人は日本人でも珍しいと思います。そして、インド人の少ない日本の知識の中で「日本人は英語をうまく話せない」というものがあります。コミュニケーションが取りづらいというイメージは求人募集でもマイナスです。

 自分の実力を一番発揮できる環境を考えた時、インドの一流の人材の多くはインドの財閥や英語圏の大手企業か、ビジネスアイデアを持っているなら起業を目指すことが大半です。だから、どんなに前評判の良い人材を採用できたとしても過度な期待は禁物だと言えるでしょう。

 

絆をいかに築いていくか

 また、日本の会社から人材が流出する話しも良く伺います。会社からすると「せっかく育てたのに裏切られた」と思われるかもしれませんが、彼らにも理由があります。
理由のひとつに、日本人の責任者が短期間(良く言われるのが2年)で帰任してしまうというのがあります。せっかく責任者がインド特有の英語や習慣に慣れてきて、コミュニケーションも取りやすくなってきた時に帰ってしまい、またコミュニケーションが取りにくい責任者がやってくる。そして、暫くはお互いの誤解で仕事が停滞したり、問題が起きる。それが何回か続けば疲れてしまう気持ちも分かります。

 その業界で世界シェアトップを誇るある日系企業のマネージング・ダイレクターが私に話してくれた言葉を思い出します。

「私の会社は海外に転勤になった場合に事前の任期がないんだ。だから、みんな平均7年近く赴任しているかな。それと、昔は赴任先では現地の言葉を使わないといけない決まりがあって、3年もすれば英語よりも話せるようになっていたね。日本人だって、日本に来た外国人が英語しか話せなくてもしょうがないと思うけど、もし日本語で話せたら嬉しいだろう?だから、過去に赴任した支社の部下ととても仲が良くなってね。今でも昔の部下達が旅行でもいいからいつこっちに来るんだって連絡くれるよ」

 自分の国を良く知ってくれて、自分のことを思ってくれる人を好きになるのは世界共通だと思います。

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著者プロフィール

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佐々木克仁(ささきかつひと)
Xroad Solutions Private Limited
Managing Director(代表取締役)

 

 

Xroad Solutions Private Limitedの代表取締役。インド駐在時代に人材事業、インド企業在籍中に教育事業に携わり、2012年5月にインドで会社を設立。インドの首都デリーで日本人の特に個人向けのサービスを提供している。ドライバー付きの運転手が一般的なインドでも自身で車を運転して移動するなど、日本視点だけでなく、インド視点からも出来事を分析し、より深い日印の相互理解を目指している。2014年10月より日本在住。

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