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中国の経済成長率を上回るインド

 コラム「インドのマクロ状況」vol.2

 中国の経済成長率を上回るインド
 国際基督教大学教養学部上級准教授
 近藤正規
 2015年5月21日   

 

世界の成長センターに

 2015年のインドの経済成長率は中国を上回るという予測が、世界銀行(以下、世銀)やIMFによって公表されている。4月15日に発表された世銀の南アジア経済レポートは”Making the Most of Cheap Oil”と題され、安価な原油価格から得る利益について論じている。

 南アジア地域は域内全ての国が石油の純輸入国であり、この地域が原油安から受ける恩恵が世界でも特に大きい。世銀によると、インドを中心とした南アジア地域が2014年第4四半期時点で既に世界で最も成長率の高い地域となった。

 この成長率は持続可能であると世銀は予測している。世銀の予測では、インドの実質成長率の見通しは、13年度6.9%、14年度7.2%、15年度7.5%、16年度7.9%となっている。16年度から18年度にかけては投資がさらに拡大し、17年度には成長率が8.0%に達する可能性もあるとしている。中国と違ってインドは、消費牽引型から投資牽引型の成長へとシフトを図りつつある。

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(出所:世界銀行の報告書より作成)

 経常収支の改善も顕著である。原油の輸入価格が大きく低下したことから、最初の3四半期の経常赤字の合計は、13年度の320億ドルから14年度は260億ドルへと順調な改善を示している。世銀の見通しでは、中期的に見てGDPの2%を下回ると予測している。ただし、経常収支改善の中身を見ると、輸入が減少している一方で、輸出実績はいまだに思わしくない。昨年は一時的に輸出が改善したが、現在は減速しつつあり、輸出高の伸びはわずかである。

 他方、原油価格低下にもかかわらず、海外からの移民の送金流入額は減少していない。インドから湾岸諸国への移民労働者数も減少していないようである。また、海外からの直接投資(FDI)と証券投資(FII)も増加している。13年度にはGDPの1.4%を占めていたにすぎない直接投資と証券投資の対GDP比率は、15年度の最初の3四半期の合計で3.4%に増加している。

 直接投資と証券投資の中で特に増えているのは、証券投資の方である。13年度には12ヶ月間で240億ドルの純流入であった証券投資が、14年度は最初の3四半期だけで280億ドルとなっている。その結果、外貨準備高も今年2月末時点で3,380億ドルに達している。デッド・サービス・レシオも改善しており、14年は1月から10月までおよそ8カ月であったのが15年の1月には10カ月となっており、外貨準備高が輸入の2週間分しかなかった1991年とは隔世の感がある。

政府の課題

 インドの今後の課題として、第一に、エネルギー補助金の減少で浮いた資金を政府がどこまでインフラ、基本的サービス、貧困層向けの援助などに充てていけるかというところである。世銀はインドがすでに炭素税導入を決めたことを評価しているが、今後の課題は、中期的には大いに起こり得る原油価格上昇の際にも、この方針から逸脱しないことである。

 第二に、今後原油価格が再び上がった場合への対応と、原油価格の上下に対するヘッジである。原油価格はたしかに大きく下落したとはいえ、直近の最安値と比べるといくらか戻しており、今後再び上昇しないという保証はない。

 第三の課題は、直接投資よりも証券投資が増えたことによって、外貨準備高が増加してデッド・サービス・レシオ(債務返済比率)も改善しているが、証券投資(特に短期の資金流入)が流出に転じた時への対応である。今年の米国の金利引き上げの可能性が少し下がったとはいえ、国際金融の情勢如何では、インドから証券投資が再び流出する可能性もないわけではない。新興国通貨の中でもブラジルレアル、インドネシアルピア、トルコリラ、南アフリカランドと並んでインドルピーが「フラジャイル5」として13年に暴落したことは記憶に新しい。

他の国際機関の予測

 アジア開発銀行(ADB)も、最近発表した15年の「アジア経済見通し」で、インドのGDP成長率が15年度には7.8%に達し、中国の7.2%を上回るという予測を示している。

 経済協力開発機構(OECD)も今年3月に、インドの経済成長率を15年度7.7%、16年度8.0%として、それまでの予測(15年6.4%、16年6.6%)から大幅に引き上げていた。この予測値は、中国の同じ期間の予測(15年7.0%、16年6.9%)をそれぞれ上回る。

 国際通貨基金(IMF)も今年3月に、インドの14年度成長率見通しをこれまでの5.6%から7.2%に上方修正し、15年度の予測も6.3%から7.5%に引き上げた。ただし、IMFは今回の修正をインド政府によるGDP算出方法の変更に伴うものとしており、5月7日からインドにミッションを送り、その内容を精査中である。インド統計局は1月末にこの変更を発表しているものの、従来の数字が大幅に引き上げられたことから、外部アナリストだけでなく、インド中銀のラジャン総裁やアルビンド・スブラマニアン首席経済顧問もこの数字の正当性に関するコメントを出していた。GDP統計を算出するに当たって「三面等価の法則」が前提となるが、91年まで社会主義型の経済運営を行ってきたインドには、生産に関する統計はあっても、分配や支出に関する統計が十分に存在していない。現在行われているIMFの調査結果に注目したい。

中国との比較

 世銀は一方、今年と来年の中国の経済成長率をそれぞれ7.1%、7.0%となり、インドの成長率を下回ると予測している。世銀以外のADB、OECD、IMFと言った国際機関も、今年からインドの経済成長率が中国のそれを上回ると見ている。中国とインドの一人当たりの所得はインドが経済自由化を開始した91年の時点ではほぼ同じであった。それが15年近い年月を経たいま、中国の一人当たりの所得はインドの4倍となっており、この間インドの経済成長率が中国のそれをドルベースで超えたことは、リーマンショックの前に一度だけあっただけで、その差は広がるばかりであったのが、ここにきてようやく縮まる見通しとなったことを考えると、画期的であると言えよう。

 

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著者プロフィール

Masanori Kondo

 

近藤正規
国際基督教大学教養学部 上級准教授

 

アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務後、98年より国際基督教大学助教授、07年より現職。
06 年よりインド経済研究所客員研究員、日印協会理事を兼任。スタンフォード大学博士。
専門は開発経済学、インド経済。

 

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