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新規ビジネスを創出するにあたっての原点(説得力を生み出す問題意識と業界全体を見渡す力)

コラム「インドのビジネスを構築するにあたって」 vol.2

 新規ビジネスを創出するにあたっての原点
(説得力を生み出す問題意識と業界全体を見渡す力)

 元アメリカ住商シアトル支店長
 加納 恭夫
 2015年5月28日

 

商品・サービスの根本的な競争力を理解する

 商社に入って10か月程経過した時のことを鮮明に覚えています。

 スペインにある港の拡張プロジェクトにゴム製の防舷材を販売する仕事の担当を命じられました。
 貿易の実務等を勉強しながら、実際に自分で見積書や契約書を作成できるようになっていたのですが、この商品を使ったらこんなメリットがありますよ、という説明について自分自身が完全に納得できず、その先に進むことができずにいました。その防舷材メーカーからもらった見積もりのスペック、説明書、等々を勉強しましたが、迫力が乏しく考えた末、別の工事関連部署にお願いし、エンジニアリング会社を紹介してもらいました。同社にこのスペック(力の吸収力等)を説明し、もしこの防舷材を岸壁に使用したらこの岸壁の建設コストが下がると防舷材のメーカーから聞いているが、具体的にどれくらいのコストを削減できますか、と相談したところ、少なくとも防舷材コストの倍は建設コストが下がるというデータをいただきました。
 このデータをもとに、この商品のコスト削減効果を計算したプレゼン資料を作り、防舷材のメーカーに報告に行きました。防舷材メーカーに素人なりにかかる計算をしたプレゼンを作りましたと申し上げたところ、新入社員がここまでよく考え、そして調べ、何が競争力の源泉かを理解していますねとお褒めの言葉をいただきました。どこの商社と取引するべきか、そのメーカーも悩んでいたように思われましたが、その後、正式に本件の契約当事者として認められました。

 このエピソードは新入社員の一つの経験ですが、今でも覚えている過去の経験の一コマで、管理職になって若い方々を指導していく立場になってもこの物語を語り続けました。
 商品やサービスの根本的な競争力を理解することは、仕入先のメーカーと取引する上でも、その商品・サービスを販売する上でも非常に重要となる要素です。

 しかし、特に価格に敏感といわれるインドとの商売においては、かかる話に至るまでに高い安いという議論で終わってしまうケースが多々あります。販売するものの値段だけで話をするのではなく、その商品やサービスを使えば総合的にどれだけのメリットが生じるのかをあきらめずに説明し続けることがインドビジネスの構築の原点であると思います。

 

インドでの経験談 – 過去の業界の歴史を分析し、中期的な視点で説明するチカラ

 セメント産業は初期投資が大きく、その投資した設備の償却費は固定費となり恒常的に償却が終わるまで継続します。また、この設備投資はセメントの主原料である石灰岩を溶かすキルン(回転窯)が大半となりますが、そのオペレーションが停止すると再開に大きなコストがかかります。需要が大きく伸びている間は問題なく固定費や比例費をカバーすることができますが、ピークを迎えた後、内需は徐々に落ちていきます。

 先進国の例を見ますと、ピーク時の需要は人口一人当たり1トンに達しますが、ピーク時から徐々に減少し、人口一人当たり400-500KGが安定した需要量となります。したがって、ピーク時の需要をベースに工場の増設を行ってしまうと、ピークを過ぎた後、たとえ輸出で生産数を確保し、内需の単価当たりの固定費を一定に維持できたとしても、内需の割合が60-70%以下になった場合、固定費全体をカバーすることができなくなります。
(通常、輸出の価格は固定費をカバーできないため、比例費プラスアルファで内需の単位当たりの固定費を増加させないといった考え方)

 

 これを踏まえ、私は設備投資を検討していたインドのあるセメントメーカーのオーナーに対し、以下のような話をしました。

 「セメント工場の生産能力は、できれば想定される内需のピークの70%までに留めることを念頭に置いた方が良いと思います。需要が生産能力を上回った時は、セメントの半製品(クリンカーと呼ばれる、石炭岩をキルンで溶かしたもの)を輸入して調整するといった方策を取るべきだと思います。そのためにはクリンカーの粉砕工場を拡張する必要がありますが、クリンカーの粉砕工場は多額の初期投資も必要なく、休止してもコストがかからないため、固定費は極めて少ないのです。」

 「今までの先進国のメーカーは工場の増設を内需に合わせて行ってきたため、内需が減少してくると余剰分を原材料費(比例費)プラスアルファのみで輸出し、内需の単位当たりの固定費を維持して来ました。しかしながら、それでも内需の縮小により採算が取れなくなってしまい、メーカー同士が合併して一部工場を閉鎖したり、外国のメーカーに投資を行い仲間内で過不足を調整したりしながら生き残ってきている現実があります。」

 「このような先進国の状況を踏まえると、内需の伸長過程で生産規模を拡大せず、クリンカーの粉砕設備を拡張しクリンカーの輸入を行うべきです」
という話を私は持ち掛けました。

 そうするとそのオーナーはまず、「クリンカーの価格はいくらですか」と聞いてきました。タイやベトナムではすでに余剰が生まれており、それぞれの国が余剰をさばこうと必死に輸出に回していたので、スポットでの価格は常に変動していました。

 そうした事情もあり、そのオーナーは日本の値段は高いということで見向きもせず、安い価格で購買することだけを頭に描いていました。ただ、日本以外の国のメーカーの余剰はまだ変動し、内需を賄うのに精いっぱいの時期でもあるため、クリンカーの輸出価格は安定的ではないことは自明の理と言えました。

 そこで私は、「日本にとどまらず、台湾のセメントメーカーはすでに内需のピークを過ぎており、内需と輸出の量のバランスがとれているため、購入するとしたらかかる国のクリンカーを購入すべきです。なぜなら、安定的に数量を確保できるとともに、内需の単位当たりの固定費を増加させないことを意識して輸出しているため、値段も大幅に変動しないはずです」と丁寧に説明をしました。

 オーナーは耳をそばだてて聞いてくれました。まさに中期的な視点で考え、設備投資と需要変化の過去の歴史を彼も分析していたと思われます。
総論は見事に理解してもらい、とりあえずクリンカー4万トンのオファーをすることになりました。

 ただ、そのオーナーは、中期的観点でものを見ることに賛同しておきながらどうしても目先の価格にこだわってしまい、日本や台湾の価格は彼らのいうマーケット価格(例えばタイやベトナムなどの価格)より1-2割ほど高かったため、結論を出すことが出来ずにいました。そこで、私は今までの説明に加え、以下の説明を行いました。

 「日本や台湾のメーカーから長期契約で安定的に購入した場合、種々の考え方を学ぶことができますよ。例えばインドのように広域にわたってコンクリートの需要がある場所では、生コン(生コンクリート)での供給はあまりふさわしくないです。二時間を超えて生コン(石、砂、セメント、水の混合物)を輸送すると材料が分離してしまい、コンクリートとしての機能が大きく低減してしまいます。したがって狭い範囲の中での建設には生コンを利用して現場でコンクリートにする一方、工場ではコンクリート製品(杭、板、ブロックなど)を生産し、その製品を運ぶといった発想も付け加えていかねばなりません。あるいは、生コンの移動式製造機を導入するなど、種々新しい方法を提供してもらえますよ。
こうした総合的な観点から、日本や台湾のメーカーからのクリンカー購入はベストアイデアだと思います。」と言って、私は心をこめてあるべき中期戦略を語りました。

 その結果、すぐに成約はできませんでしたが、半年後にはクリンカーの粉砕工場を増設することになりました。ついてはその粉砕工場の増設完了の暁には、安定的にクリンカーを供給してほしいという話を伺いました。

 この経験が示すように、まさに新興国には過去の業界の歴史を紐解き、その中から参考になる事例を抽出し噛み砕いて説明する、といったチカラを養成する必要があると思います。

                  

<御社のインドビジネスをお手伝いします>
株式会社 インダストリー (顧問 加納恭夫)
info@industree.asia

 

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著者プロフィール

 


加納 恭夫
元アメリカ住商シアトル支店長

 

 

 前52歳まで大手総合商社に勤務し、最後の職責は米国法人の物資不動産部門長兼シアトル支店長。同社を退職後、IT企業の社長、ベンチャー企業の社長等を歴任し、現在中堅鉄鋼商社の顧問等を行っています。
 40年以上の歴史の中で、中近東へのセメントの輸出、三国間貿易において新規な物流方法をあみだし(袋ものセメントからバラセメントでの輸送等)世界の貿易量の7%のシェアーを握るまでのレベルに成長させ、その後、台湾、米国に駐在し、合弁事業の立ち上げ、企業の買収、また、中堅鉄鋼商社のインドでの独立法人設立等、多岐にわたる分野において経験を積んできています。(65国に出張)
 現在の日本をそうした経験から見てみると、結果論だけで物事の判断を行ったりといった、あるいは人のせいにしながら自分を守るとかといった風潮が見られ、ちょっと寂しい感じを抱きます。我々の世代は大いなる問題意識をもってそれこそ汗と涙を流し、そして仕入先、販売先の人たちそして社会に貢献したいとの愛をもって取り組んできていたと思います。そうしたわれわれの世代の経験を次代に引き継ぎたいという思いで今回の執筆を行いたいと思います。

 

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