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変貌するインドの小売業

コラム「インドの上にも10年」 vol.8

 変貌するインドの小売業
 Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
 荒木 英仁
 2015年6月2日   


 2005年赴任当時は周りにはショッピングモールが数える程しか無く、小売業の大半は住宅街に隣接する小規模なパパママショップ(取り敢えず日用品は大概揃えている日本で言うところのコンビニ)が主流であった。当時、私の住むグルガオンでは新鮮な野菜や果物を入手するのも困難であった。1時間以上もかけ、わざわざデリーのINA市場(上野のアメ横のような日用品からあらゆる食品が揃う歴史のある市場)まで新鮮な野菜や果物を買い求めに行ったり、デリーのモールで日用品を購入したりと、結構不便な生活をしいたげられていた。 そんな不便極まりないグルガオンの環境も、ここ10年の間に大きな変貌を遂げた。今のグルガオンは大型ショッピングモールが乱立し、大型スーパーや家電量販店も至近距離に数多くの店を構え、グルガオンで買えない物は何も無いほど便利な街へと変わった。今回のコラムではそんな猛スピードで変貌を遂げつつあるインドの小売業界に焦点を当ててみたいと思う。

 現在、世界で最も小売形態の進化スピードが速いと言われているインド。2013年度4,900億ドル市場であった小売市場は2018年には倍近い9,400億ドルに、そして2020年度には1兆3千億ドルに達すると予測されている。その中でもオンライン小売市場は2013年度31億ドルが2018年には220億ドルに達する見込みである(IBEFデータ)。

 オンライン、サテライト等の発展に伴う情報量の増加により、インドの70%を占めるルーラルマーケットの生活水準も底上げされ、結果として農村部の消費の増加も大きく見込まれ、2006年度のFMCG – Fast Moving Consumer Goods (日用消費財)市場が120億ドル程度であったのに対し、年率平均19%の高い伸長率が見込まれ、2025年には1,000億ドル市場に化けると予測される。また2006年度にはインド全土に500店舗程度しか無かった現代的なスーパーマーケットは、2016年には8,500店舗に達すると予測されている。この数は、10年間で17倍である(INDIARETAILING.COMデータ)。

 この小売市場の変貌の要因はいくつか考えられる。まずは、2014年度のモディ政権誕生で期待される政治の安定化。それに伴う安定的な経済の成長。そして国民の過半数を占める25歳以下の若者達が牽引していく消費者市場。景気上昇に伴う国民全体の購買力の底上げ。そして急激に変貌しつつあるルーラルエリアの都市化。更に、比較的容易に入手出来るようになったクレジットカード、ローン支払いの設定等、外資銀行を初めとするファイナンスセクターのサービス体制の進化も大きな要因の一つであると考えられる。
小売業界のインフラ自体も市場開放が着実に進み、外資が参入し易くなっている。未だマルチブランドの小売業は外資51%(2010年度設定)までと規制はあるものの、単独ブランドでは100%出資が認められており、今後更に外資の参入が進めば進化し続ける事は間違い無いと思える。

image 1(出所:Aranca Researchのデータより作成)

 

現状インドの小売業界は大きく4つのカテゴリーに集約されている。

1. 単独ブランド:メーカー直営或いはフランチャイズ店が多く、ひとつのブランド製品のみを扱う形態。正規品であり品質保証が強みである。代表的なストアは、SONY SHOP, NIKE, ZARA等。

2. マルチブランド:通常商品カテゴリーは絞られ(例えば電化製品)出来る限り多くのブランドを扱う形態。消費者はチョイスが増え、実際に商品を店頭で比較出来る。代表的なストアはCROMA, RELIANCE DIGITAL, PLANET SPORT, LANDMARK, CROSSWORD等。

3. デパート、ハイパーマート、スーパーマーケット:扱いカテゴリーは日用品、食品、耐久消費財まで幅広く、消費者にとって選択肢は広く、ワンストップで何でも揃う利便性が評価されている。代表的なストアはLIFE STYLE, SHOPPERS STOP, BIG BAZAR, SPENCERS, RELIANCE STORE等。

4. オンラインストア:ここ数年目覚ましい発展と遂げたEコマースである。3番同様にあらゆるカテゴリーの商品を取り揃える総合デパート的なオンラインショップから、カテゴリー別(ホテル、食品、家具等)に特化するショップまで千差万別で日々進化を続けている。代表的なストアはFLIPKART, AMAZON, SNAPDEAL等。

小売業界の扱いカテゴリーに注目すると69%が食品であり、その次が衣料品で8%、更に宝飾品、電化製品と続く。今年の5月にGAPインド1号店がオープンするなど、外資系の出店は後を絶たず、ZARA, MANGO, BENETON等の欧米系衣料品店の売上は年間40%内外の伸長を継続している。

 

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(出所:Technopak、Indian Retail Market January 2013、Deloitteのデータより作成)

一方でインド全土を考えればモダンリテールと呼ばれるチェーン展開している小売業展開している小売業はまだ全体の8%程度である事も事実である。延びシロは図りしれないが世界で最も進んでいるアメリカの85%に比較すると長い道のりである。所謂パパママショップの1,500万強の店舗が92%を占め、まだまだインドの小売業界を牽引しているのである。

 

image 3

 

カテゴリー別に見てもアパレルは20%近い浸透率があるものの、その他のカテゴリーではまだまだ10%内外が多くポテンシャルの高さは計り知れないものがある。但し、今後どの程度のスピードで小売のチェーン展開が進むのかが問題ではある。また、ここが誰にも読み切れないのがインドである。

 

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(出所:Ministry of Statistics and Programme Implementation、PwC “Retail Reforms in India”、Aranca Researchのデータより作成)

多くの日本のメーカーは今までその製品力、技術力、品質等を競合との差別化に駆使し世界の市場を席巻して来た。しかしながらここインド市場へ本格的に進出して来た頃には今まで優位に働いていたこれらの差別化も、日本(日本製品)に対してそれ程の思い入れもリスペクトも無いインドでは効力を発揮できず、欧米、韓国、中国、台湾企業等との戦いに苦戦している。今後、日本のB to Cメーカーは、インド消費者との接点である、この小売業界を良く理解し、上手く活用する事がインド事業成功への近道と考える。未だ小売のチェーン展開が確立されていないインドでは、バランス良く商品の配下を考えなければならない。日本の様に流通、小売業界が整備されていないインドでは、いきなり全国展開は至難の業である。製品力、市場規模、価格、流通、小売形態といくつものファクターを掛け合わせ、最良の戦略を構築し、テリトリーを絞り一歩づつ確実に市場を広げて行く事が現状のインド市場での成功への近道と考える。

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著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

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