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アジアインフラ投資銀行とインド

 コラム「インドのマクロ状況」vol.5

 アジアインフラ投資銀行とインド
 国際基督教大学教養学部上級准教授
 近藤正規
 2015年7月23日   

 中国主導によるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立は、日本でも様々な議論を呼んだ。本稿では、このAIIBにおいて第二の出資比率を負担することとなったインドの参加について考察を行いたい。

 

AIIBのメンバー国

 6月29日、アジアインフラ投資銀行の創始国57カ国が北京に集まり、国内で承認された50カ国が設立協定に調印した。その出資比率と投票権はドルベースでのGDP(国内総生産)とPPP(購買力平価)によるGDPを加味して決められ、結果的に、出資比率と投票権においてインドは中国(それぞれ30.34%、26.06%)に次ぐ地位(8.52%、7.51%)を確保することとなり、それにロシア(6.66%、5.93%)、ドイツ(4.57%、4.15%)、韓国(3.81%、3.50%)が続いている。

 

インドが参加するメリット

 AIIBの融資対象において重要な地位を占めるのは、中国政府が推進する「シルクロード経済ベルト構想」である。しかし、インドにとって安全保障上の観点からこの構想は歓迎できるものではない。実際、モディ首相の訪中の共同宣言でも中国のこの構想については一言も述べられていない。

 そうしたことにもかかわらず、インドがAIIBに参加した理由としていくつか考えられる。

 第一に、AIIBの融資によってインド自身の国内のインフラを整備できることである。前政権によって進められた官民協調(PPP)によるインフラ整備は問題が多く、モディ政権になってからは公共事業により軸足を移しつつあるが、財源の問題は深刻である。AIIBを通して中国のインフラ整備の経験をインドが学びたいと思っていることは、容易に想像できる。

 第二に、世銀やADBからの融資と違って、AIIBは融資におけるコンディショナリティが少ない。かつて世銀とOECF(現JICA)によるナルマダ・ダム建設への借款は、住民移転や環境問題から、内外のNGOをも巻き込む国際的な問題となり、結局中止に追い込まれ、インド政府だけによる資金で建設が進められた。そのため、世銀ではその後数十年インドへの水力発電事業を行わなかったという経緯もある。インドは世銀、ADB、日本、その他の二国間ドナーを使い分けているが、そこにAIIBもオプションとして入ることになる。

 第三に、インドがAIIBに第二の出資国として参加することは、印中関係の強化にとってフラッグシップ的な意味合いもある。モディ首相は今年5月に中国(北京と西安)を訪問し、インド側の大幅な貿易赤字縮小のため、中国企業にインドへの直接投資を呼びかけた。デリーとチェンナイを結ぶ高速鉄道も中国との間で覚書を結んでいる。このように、経済の面からいうと、インドにとって中国はなくてはならない存在である。そのため、インドにとってAIIBに参加することは、経済外交の面から少なからぬ意味合いがある。

 第四に、すでに上海協力機構とBRICS銀行に参加しているインドにとっては、国際社会におけるプレゼンスをさらに高めていくことになる。モディ政権になって、インドは国際社会における地位を高めていこうという意図は明確であるし、これまでと同様に、南のリーダーの一角として米国や欧州諸国とのバランスの取れた外交を進めていこうという趣旨にも適合する。

 第五に、インドはブータンやネパールなどの周辺国に対して援助を行っているが、まだその規模は小さく、AIIBと競合することがない。インドにとってスリランカやパキスタンなどの周辺国のインフラを中国政府が整備することは外交的な意味で抵抗があるが、AIIBであれば、中国主導とはいえ国際機関であるため、そういった問題が少ない。周辺国のインフラ整備の経済効果が大きいのは、インドも中国と同じである。

AIIBへのメリット

 このようにインドにとって意義のあるAIIBへの参加であるが、AIIBにとってもインドがメンバー国になるメリットは少なくない。

 第一に、インドはプロジェクト・ファイナンスにおける優秀な専門家人材が豊富である。世銀やADBと同じように最優秀な人材が参加することにより、AIIBのプロジェクトの質を向上させるであろう。ADBが50年前に設立された時は、日本人の総裁や幹部が大きな役割を果たしたが、それを支えたのは最優秀なインド人副総裁であった。同じように、近く設立準備が進んでいるBRICS銀行も総裁はインド人になると報道されている。

 中国政府には優秀な官僚はいるが、優秀な金融のプロフェッショナルが少ない。インドには邪な政治家が多い代わりに、優秀な官僚とプロフェッショナルの両方がいる。来年任期が切れるRBIラジャン総裁にIMFの次期専務理事を望む声があるほどであることからもそれはわかる。AIIBでインドが副総裁なのかどのようなポストを用意されているかは不明であるが、大きな貢献が期待されていることは間違いない。

 第二に、AIIBのアカウンタビリティの向上である。中国主導のAIIBに対して透明性を懸念する向きがあるが、英国などの欧州諸国の参加はそういったことに一定の歯止めをもたらし、英国などが説明責任や環境保全といった観点でその役割を果たすであろう。これに加えて、インドの参加は、中国だけの外交的な目的達成のツールとならせないための外国上の透明性をもたらしうる。AIIBへの参加をいまのところ見送っている日本にとっては、AIIBにおける中国政府の動向を、日本の代わりにインドがウオッチしてくれるような形になることも期待できる。

 AIIBが今後どのように設立されていくかは興味深いところであるが、インドがAIIBに参加することの重要性が高いことだけは間違いない。

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著者プロフィール

Masanori Kondo

 

近藤正規
国際基督教大学教養学部 上級准教授

 

アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務後、98年より国際基督教大学助教授、07年より現職。
06 年よりインド経済研究所客員研究員、日印協会理事を兼任。スタンフォード大学博士。
専門は開発経済学、インド経済。

 

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