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一年を迎えたモディ政権の経済運営とその評価(第二部)

 コラム「インドのマクロ状況」vol.4

 一年を迎えたモディ政権の経済運営とその評価(第二部)
 国際基督教大学教養学部上級准教授
 近藤正規
 2015年8月3日   

 

インフラ整備の遅れ

 一年前のモディ政権発足時から、土地法や税制、労働法の法改正を国会で通すのは難しいと予想されていたが、グジャラート州でインフラの整備を急速に成し遂げたモディ首相の手腕が全国レベルでどのくらい見られるかについては、もう少し大きな期待をもってみる見方が多かった。

 実際にモディ政権になってから、問題の多かった官民協調(PPP)によるインフラ整備から公共事業主体に切り替え、予算も大幅に拡大するなど、インフラ整備は若干加速しつつある。ただしいまのところ、グジャラート州と同じように他の州がなりつつあるという兆候は見られない。道路建設を例にとっても、2017年までに一日当たり30キロの道路を建設するという目標が掲げられているにもかかわらず、いまのところその3分の1の一日10キロの道路しか建設されていない。60万の村をブロードバンドでつなぐという計画も進んでおらず、政府主導ではなく民間企業主導でした方がいいという意見もある。

 インド全国に100のスマートシティを建設する計画は目下100の都市をリストアップした段階であるが、これもインド全土にこれだけの数を建設するより少数の都市に絞ってモデル都市を重点的に建設した方がいいのではという見方もある。民主主義国で地方分権化の進むインドではもちろんこのようなことは難しいが、デリー・ムンバイ産業大動脈(DMIC)構想だけを見ても、モディ政権発足後に進捗が加速したとは思えない。

 電力をみると、ピーク時の需給ギャップが11年度の10.6%から14年度には4.7%まで改善している。しかしこれは製造業の稼働率低下、燃料価格が低下したことによるところが大きく、前政権時代に始められたメガパワー案件を見ても、実際に進んでいるものはきわめて少ない。インド政府はインド石炭公社(ICL)の石炭産出量が増加したことから、今夏の電力不足は緩和されるとしているが、実績が試されよう。

 インフラ整備を担う公企業民営化も進んでいない。例えば、ICLの民営化推進はストライキによって頓挫した。そもそもモディはグジャラート州で公企業を民営化することなく業績を改善した実績があり、そのため民営化はそもそもモディ政権で優先順位が高くなかったが、肝心の公企業の業績改善が全国レベルではまだ進んでいない印象がある。

 鳴り物入りで始められたガンジス河の清浄化計画も、いまのところ進捗が見られない。ライン河の清浄化で実績を上げたドイツの協力を得ることになっているが、清浄化以前に汚さないというモニタリングを徹底させる段階から始めるべきではないかとも思われる。

 遅延の甚だしい大型プロジェクトの推進も、リストアップはされているが動き出した気配は乏しい。例えば、韓国のポスコによるオリッサ州の製鉄所建設計画はまだ動いていない。ただし、多くの大型案件の遅れの原因となってきた環境クリアランスについて、2カ月以内に承認されないものは自動承認とするという新しい制度が導入されたのは、今後のプロジェクトの迅速化につながると思われる。そもそも、インドのような国ではたかだか一年でインフラ整備が進むことを期待する方が無理で、これらは2年目に期待したい。

 

今後の展望

 モディ政権の経済運営に対する批判には、こうした実績の不足に加えて、マクロレベルにおけるビッグ・ピクチャーの欠如、人的資源開発に対する優先順位の低さ、貧困対策の不足などがある。「モディノミクス」は、トップダウンの金融緩和では早々に成果を上げたアベノミクスと違い、アベノミクスでいうところの「第三の矢」に相当する部分が主体でミクロレベルの改善の積み重ねであるため、どうしても成果が出るのに時間がかかる。

 そもそも、規律の徹底、汚職の撲滅、成果主義といった、シンガポールのリー・クアン・ユー元首相張りの強権政治は、シンガポールとは対極のインドのような国では最も難しい。モディ首相はこの一年に中央政府の財務次官、外務次官、内務次官、観光次官を立て続けに更迭しているが、その絶対的権力もインド全国には及んでいない。

 さいわい、モディ政権に対する国民の見方は「具体的な成果は感じられないが、もう少し期待していてもいい」という感じが強く、大きな不満が出るところまでは及んでいない。最近の世論調査でも政権支持率は都市部で82%、農村を含むその他の地域で67%に及んでいる。別の世論調査でも、モディ政権について「非常に良い」「やや良い」と答えた人が66%に上っているが、他方「非現実的な期待を抱いていた」と答えた人も57%に上っている。支持率の高さは、迷走を続ける野党の国民会議派に助けられた感がある。

 これまでの一年間に行われた州議会選挙では、ハリヤナ州、マハラシュトラ州、ジャム・カシミール州でBJPとその友党が勝利しているが、デリーでは庶民党に大敗を喫しており、この流れが他の州に及ぶという見方はまだ少ないものの、予断を許さない状況にある。さしあたって、近く予定されているビハール州の選挙は重要である。

 モディ首相とBJPの支持母体である宗教団体のRSSとの関係がうまく行っていると思えないのも気がかりで、RSSはモディ首相就任一周年を祝うステートメントを出していない。現状では全部で30あるインドの州(及び準州)でBJPとその友党が支配する州は9しかない。これから各州で行われていく州選挙をBJPが勝ち続けていくためには、選挙戦におけるRSSのメンバーの草の根レベルでの協力が不可欠である。

 モディ首相は政権一周年を記念する演説で「縁故主義と中間搾取文化を終わらせた」と訴えた。シンハ財務担当国務大臣も来日時「最初の一年は財政規律の再構築などに費やしたが、二年目はいよいよ改革メニューを実行に移す」と胸を張った。いまのところインドの国民はまだモディ政権に対してまだ寛大であるが、目に見える成果がいつまでも出てこないとそうあり続けることはできない。2年目を迎えたモディ政権がどこまで実績を出していけるか、注目していきたい。

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著者プロフィール

Masanori Kondo

 

近藤正規
国際基督教大学教養学部 上級准教授

 

アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務後、98年より国際基督教大学助教授、07年より現職。
06 年よりインド経済研究所客員研究員、日印協会理事を兼任。スタンフォード大学博士。
専門は開発経済学、インド経済。

 

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