インドの最新業界ニュース、2500社のインド企業情報を提供するポータルサイト

変貌を遂げるインドの消費者層

コラム「インドの上にも10年」 vol.10

変貌を遂げるインドの消費者層
Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
荒木 英仁
2015年8月4日

 今回は、現在のインドの高度成長を支え、凄まじい勢いで変貌を遂げつつあるインドの消費者にフォーカスを当ててみたいと思う。

 まずは人口動態で日本と比較してみたい。人口1億2千7百万人の日本に対し、インドは12億5千万人。インドの国土は広いと言え、人口密度は1キロ四方で410人(日本は349人)と意外と密集している。平均年齢は日本の45.8歳に対し26.7歳と可能性無限大である。出生率も1,000人あたり8.2人の日本に対し20.4人と驚異的な数字である。一方で死亡率が1,000人あたり10.1人の日本に対し7.93人である。減り続ける日本に対し、まだまだ人口が増え続けるという事である。

 また、人口の大半92.5%が都市部に集中する日本に対し、インドではまだ人口の68%が農村部に住んでいる。これはどういう事かと言うと、消費の大半が都市部で行われる日本に対し、人口の70%に近い人達が、いずれ収入も増加しインドの消費を牽引して行くポテンシャルを持ちあわせているという事である。

 現在のインドにおける耐久消費財の普及状況を日本のそれに照らし合わせると、私の小学校低学年時代(昭和30年代後半から40年前半)頃に良く似た状況に思える。政治が安定し、社会インフラが急速に整備されつつある。世帯所得が急激に上昇し、将来への夢と希望に満ち溢れた若者達を中心に時代が移り変わり、家族経営の小売店が主流を占めながらも、大型で近代的な流通、小売業界も急速に発展している。日本の高度成長期を漫画や映画にした「3丁目の夕日」の世界に近いものが、今リアルに展開されている市場である。

 2013年度のインドの耐久消費市場(US$ 449億)の都市部と農村部の内訳を見ると、67%が都市部で消費され33%が農村部である。そして農村部の消費全体の43%がこの耐久消費材に使われているのである。また、リテールインフラが遅々と進まないインドにあって、ここ数年著しい成長を遂げたeコマースによって、携帯普及率だけは特出している農村部でも更に消費が加速する事が期待されている。

 また、世帯収入の推移を見ると消費力の増大が良く分かるが、インドの中間階級と言われる年間世帯収入US$4,400-22,000の占める割合が2008年度は14%程度であったのに対し、東京オリンピック開催年度の2020年には人口の31%に、2030年には46%に達すると予測されているのである。(Mckinsey Global Institute, Aranca Research)

 前職の広告代理店時代にインド市場の移り変わりを10年余り目の当たりにしてきて感じた色々な事も、この昭和の日本の高度成長期にあてはまる事が意外と多い。白黒からカラーテレビへの移行(インドではブラウン管から薄型テレビに移行)。電気洗濯機、電気冷蔵庫の普及。ルームエアコンの普及。マイカーブーム。高速幹線道路の整備。新国際空港の開設等々。

 そんな右肩上がりのインド市場で今の消費者達がどのように購買意思決定を進めるのかは興味深い点である。デリーに代表されがちなステレオタイプのインド人は保守的で新しい物には慎重であると思われているが、果たしてそうなのであるかは甚だ疑問である。私が今まで様々な日本製品のインド市場導入に携わってきた中で分かった事がいくつかあるので紹介したい。

 まず消費者が購買意思決定をする上で最も大事なカテゴリーは「価格」では無く「機能」であるという点。インド人はケチで何はともあれ値段が大事と思われがちではあるが、色々と調べて行くうちにそうでも無いことが見えてくる。食品であれば味、成分、家電、自動車ではデザインも含む仕様、性能、機能等である。一方で、更に深堀りすると理由が曖昧だったりするのもインドの特長である。インド人なら誰でも一度は口にし、過半数が好きなヌードルに挙げるネスレ―が販売する即席麺の「マギー・ヌードル」。何故好きかと聞くと味が良いからと答える。そこで他のブランドは何が悪いのかを聞いても理由が無かったりする。

 結局子供の頃から慣れ親しんだ味、そしてこのマギーの現象で分かるように「機能」と同様に「信頼性」も購買意思決定のひとつの重要ポイントであるという事。子供の頃から目にしてきたブランド力はインドで成功する為に非常に大切なのである。このブランド力をつける為にトップ企業は長期に渡りTVCMを流し続ける。未だ多くのインド人消費者達の購買時の情報源は圧倒的にテレビCMなのである。ここら辺りも日本の高度成長期に良く似ていると思う。TVで見たことがあるブランド=信頼の於けるブランドという図式が脈々と成り立っている。皆が知っている事が大事なのである。例え日本の製品が競合他社よりも品質が良くても知名度が無い限り、消費者から信頼を勝ち得るのは至難の業である。

 時代も社会背景も違うので一概に比較は出来ないものの、消費者が無限の様に増え続けるこんな魅力的な巨大インド市場を日本企業が指を咥えて見ていてはいけないと思う。インドの消費者達と欧米他ローカル企業の先駆者達が長年築いてきたブランドロイヤリティの高い自動車、自動二輪、家電やFMCG(消費財)カテゴリーで、予算も体力も無い日本企業が後発で入り込むのは非常に難しいとは思うが、まだまだ市場として成長が期待される他の分野は山ほどあるのは間違いない。

 インド人は保守的だと思われがちではあるが、ネット情報過多の時代に育って来た若者を中心とする今の消費者達はどんどん新しい物を取り入れ始めている。

 今までインドに存在しない物であっても積極的にトライしている。ちょっと前までは「チャイ」しか飲まなかった人達がiPhone片手にスターバックスでたむろするようになり、ファーストフードの後発部隊である「バーガーキング」や「ウェンディ―ズ」等も最近インド進出したばかりではあるが、店舗数は増える一方である。アパレル業界の後発である米国のGAPがインドに上陸したのも記憶に新しいが、オープン1ヵ月で1店舗だけで1億3千万円の売上を記録したのである。インドには先発のMANGO、ZARA、FOREVER21他多くの競合がひしめく中での快挙である。日本を代表するユニクロも進出準備を着々と進めているという噂を良く耳にするが、彼らの得意とする品質管理やユニークな商品群を持ってすればきっと成功すると思う。

 日本人の得意とするきめ細かい、質の高いサービスを中心とする分野はまだまだ発展途上であり、入り込む余地は沢山あると思う。欧米の得意とするフランチャイズ展開も、サービス産業に於いてはインドに来たとたんに品質が崩壊し、失速、失敗する例も後を絶たない。

 どうせ高い日本人の人件費をこの市場に投下するのであれば、日本人にしか出来ない様なサービスや品質管理のもと付加価値を付けた上で新たな市場を創出して行く事で可能性が無限に広がると思う。今のところ日本人をターゲットにしたサービス産業が少しずつは増えてはいるものの、まだその矛先を巨大なインド市場に向けて開発している企業は未だ少ない。ターゲットを変え、インド人消費者を理解し日本人の得意とする「おもてなし」を持ってすれば必ず日本企業もインド市場で居場所を見つける事が出来るはずである。

 

———————————————————————————————————————————-
コラム記事に関するご意見・ご感想はこちらからお問い合わせください(メーラーが起動します)

 

バックナンバー


>>インドビジネスコラム一覧へ

 

著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

一覧に戻る