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Make in India:バイオテクノロジー産業

コラム「Make in India(メイク・イン・インディア)」vol.5

 Make in India:バイオテクノロジー産業
 株式会社チェンジ プリンシパル・コンサルタント
 Saurabh Srivastava 
 2015年8月13日   

   

 

make in india

 今回は、インドのバイオテクノロジー産業について見ていきたい。

 

バイオテクノロジー産業の概要

 インドのバイオテクノロジー産業は、インド政府が推進している「メイク・イン・インディア」プログラムの重点分野の一つとして位置付けられている。インドのバイオテクノロジー産業は非常に革新的であることから、最先端技術の製造拠点としても重要な役割を果たしている。

 同産業は需要拡大や集中的な研究開発活動、政府による積極的な優遇措置等の要因により、急速な成長が期待されている。インドのバイオテクノロジー産業の市場規模は2014年の45億ドル(約5,400億円)から年平均37.1%のペースで成長し、2017年には116億ドル(約1兆3,920億円)に拡大すると予測されている。

インドのバイオテクノロジー産業の市場規模推移
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(出所:Biospectrum Inc&ABLE調査2014年7月)
*CAGR:年平均成長率 


 現在インドは世界のバイオテクノロジー産業の投資先として上位12か国に入っており、アジアでは中国に次ぎ第2位である。また、組み換え沈降B型肺炎ワクチンの世界最大の生産国、そして遺伝子組み換え(GM)作物の生産では世界第4位の国である。巨大な人口を有することから世界最大のワクチン市場でもある。

 

市場規模

 現在インドは世界のバイオテクノロジー産業の約2%を占めている。しかし、近年は重点分野として注目されていることから、今後インドはさらに大きなシェアを獲得することが予測されている。

 インドバイオテクノロジー企業連盟(以下、ABLE: Association of Biotechnology Led Enterprises)によると、インドのバイオテクノロジー産業は現在の45億ドル(約5,400億円)から2025年までには1,000億ドル(約12兆円)規模に達する見込みである。それまで年平均成長率は現在の15%の2倍にあたる30%が続く見通しだ。様々なバイオテック製品に対する需要の拡大に伴い、外国企業による拠点設立や巨大な利益創出が促進されるとされている。

 インドのバイオテクノロジー産業は、バイオファーマ、バイオサービス、バイオ農業、バイオ工業、バイオインフォマティクスの5つの主要セグメントに分類されている。2013年度のバイオテクノロジー産業の総売上における分野別シェアは、バイオファーマが63%、バイオサービスが13%、バイオ工業が3%、そしてバイオインフォマティクスは1%であった。バイオファーマ分野における輸出額は2013年に産業全体の約3分の1以上を占め、バイオサービスは約18%を占めた。

インドのバイオテクノロジー産業セグメント別内訳
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(出所: Biospectrum Inc&ABLE調査 2014年7月)


 急成長が続くバイオサービス分野に伴い、インドはバイオテクノロジーの臨床試験や受託研究、製造活動の拠点としても注目されている。

 同産業の総売上を州別で見ると、マハラシュトラ州は国内のバイオテクノロジー産業の約38.2%を占めており、同州に拠点を置く企業の売上総額は2014年に17億ドル(約2,040億円)であった。また、都市別ではバンガロールが最大シェアの28.2%を占めており、2014年に12億5,000万ドル(約1,500億円)の総売上を記録した。 

インドのバイオテクノロジー産業 州別(左)都市別(右)内訳
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(出所: Biospectrum Inc&ABLE調査 2014年7月)

 

投資動向

 インドのバイオテクノロジー産業は、ここ20年間で世界中から大きな注目を浴びてきた。バイオテクノロジー産業の潜在性を見据え、グローバル企業がインド企業と提携したケースはこれまで多数見られる。近年の代表的な投資には下記のような例がある。

  • 英国の大手製薬グラクソ・スミスクラインは、インド南西部のカルナタカ州にタブレットやカプセルの製造拠点を設立するために100億ドル(約1,200億円)を投じると発表した。同拠点は、カルナタカ州のKolar区にあるVemgal工業団地に建設される。
  • インドのバイオテクノロジー企業Santha Biotechnicsは7,359万ドル(約88億3,080万円)を投じ、糖尿病治療のインシュリン製品”Insuman”を製造する工場を建設している。同工場における”Insuman”カートリッジの生産能力は最大で年間6,000万個に及ぶ。同社は、2009年に仏サノフィグループのワクチン部門、サノフィパスツールに買収されている。
  • インドの医薬品大手Dr. Reddy’s Laboratoriesは、インドで心臓病やがん治療の医薬品を販売するため米国のバイオテクノロジー企業Amgenと提携を結んだ。
  • インド酪農開発庁(National Dairy Development Board)の完全子会社インド免疫学会社(Indian Immunologicals Ltd.)は、ポンディシェリー州に新たなワクチン生産拠点を設立するために4,799万ドル(約57億5,880万円)の投資を発表した。同社は現在ハイデラバードとオーティの2拠点に工場を保有している。
  • ケララ州に本拠を置くArjuna Natural Extracts Ltd.は、アルツハイマー病の治療に効果的とされるターメリックエキス製剤”BCM-95”の特許を米国で取得した。
  • 印大手製薬企業バイオコンは、米国Bristol-Myers Squibbとの合弁会社Bristol-Myers Squibb and Syngene Internationalを通じ、インド国内で医薬品の研究開発を手掛けている。
  • インド政府系のバーバ原子力研究所(Bhabha Atomic Research Centre)にある技術インキュベーションセンターはナグプール本拠のVeena IndustriesとMoUを締結し、食品・医薬品の包装に使用する生物分解性及び食用フィルムの共同開発を手掛けている。
  • 米国のCancer Genetics Inc (CGI)はゲノム解析サービスを手掛けるBioServe Indiaを190万ドル(約2億2,800万円)で買収した。

産業政策

 インド政府は、バイオテクノロジー産業における技術開発を促進させるための産業パートナーシッププログラムを打ち出している。バイオテクノロジー庁(Department of Biotechnology)は、同産業における人材育成やインフラ構築、市場成長や貿易を促進させることを掲げる国家バイオ政策(National Biotechnology Development Strategy)を発表した。第11次5ヵ年計画の期間中、インド政府は同産業に11億ドル(約1,320億円)を投資したが、第12次5ヵ年計画の期間中には総額37億ドル(約4,440億円)を投じると発表している。さらに、2025年までに1,000億ドル(約12兆円)規模の市場に成長させることを目標として掲げている。 

第12次5ヵ年計画予算
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 (出所:インド計画委員会)


 第12次5ヵ年計画の戦略では、バイオテクノロジー産業における研究とイノベーション、製品開発を促進させる方針が掲げられており、インドが保有する基礎科学の強みを活かし、バイオテクノロジー産業の国際競争力を高めることを最大の目的としている。さらに、同政府はインクルーシブ(包括的な)開発の枠組みのもと、バイオエコノミー全体におけるバイオテクノロジーの応用を促進させることにも重点を置いている。

 インド政府はバイオテクノロジー規制当局や(Biotechnology Regulatory Authority of India)や研究所の規制検査や認可を実施する中央当局を設置し、同産業の規制やインフラ整備を強化させる計画である。

 バイオテクノロジー庁や国家バイオテクノロジー委員会(National Biotechnology Board)等の政府系機関や独立系の関連組織は、インドをバイオテクノロジーの研究及び事業展開のグローバルハブとして発展させるために積極的な連携を取っている。

  • CSIR-Institute of Himalayan Bioresource Technology(CSIR-IHBT)はPhyto Biotech Pvt. Ltd.とMoUを締結し、化粧品や食品、製薬業界で使用される特殊なスーパー・オキサイド・ディスムスターゼ酵素の生産の技術移転で合意した。
  • インドのバイオテクノロジー庁は、オーストラリアの主要な科学研究所や大学機関に研究者を派遣し共同研究プロジェクトを実施するフェローシッププログラム(Indo-Australian Career Boosting Gold Fellowships)をオーストラリア政府との共同で実施すると発表した。

 

 インド政府は、臨床施設のために生体医療廃棄物の処理・廃棄や関連プロセスを行う一般生体医療廃棄物処理施設を運営する業者に関しては、サービス税を免税する優遇措置を設けている。また、公的資金を受けている研究機関やその他の研究機関に対しては、科学産業研究長(Department of Scientific & Industrial Research)が発行した登録書を提出することを条件に、技術的な機器や装置等の輸入時に発生した関税の払い戻しを認めている。その他にも、インド政府は下記のような優遇措置を実施している。

  • 工場や機械にかかる減価償却費を25%から40%へ引き上げ
  • 特定の研究開発のために輸入された物品に対する関税を免除
  • 研究開発費に対して150%の加重税額控除を適用
  • 特許製品にかかる物品税を3年間免除
  • 公的資金を受けた研究開発費に関しては125%、自社の研究開発に関しては100%の払い戻しを実施

 

FDI政策

 製薬分野では、新規投資(グリーンフィールド)に関しては100%までのFDIが自動承認ルートで認められている。一方、既存事業への投資に関しては政府ルートで100%のFDIが認められている。インド商工省産業政策促進局(DIPP)の公表データによると、航空産業に対する外国直接投資(FDI)の流入額は、2000年4月から2015年4月までの累計で5億7,017万ドルであった。1993年に民間航空会社の参入が認められて以降、同国の航空産業では民間セクターの拡大が急速に進んでいる。今後も同産業には2012年から2017年の間に総額121億ドルが投資され、その内の93億ドルが民間セクターからの投資になる見込みである。

 

今後の動向

 研究開発施設や業界の知見、スキル、コスト効率性等の点で優位性を持つインドは、世界のバイオテクノロジー産業において重要なプレイヤーとなる潜在性がある。また、インドは多様な遺伝子プールを保有してることから、医薬品の臨床実験を実施するために最適な市場である。

 2015年には44億ドル(約5,280億円)に達すると予測される世界の産業用酵素市場に対し現在インドが占める割合はかなり少なく、同市場における事業機会はかなり大きい。特に同分野では、環境負荷が大きい化学的な製造工程を減らし、持続可能性を実現させる環境に優しい製造工程に転換できる技術の研究開発やイノベーション創出への期待が高まっている。また、バイオ医薬品の効果を促進させるバイオマーカー(観察、診断、治療に用いられる、身体の状態を客観的に測定し評価するための指標)やコンパニオン診断(医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行なわれる臨床検査)も潜在的な市場であるとされる。

 インドの医薬品企業は化学合成やプロセスエンジニアリングの分野で既に高い競争力を持っているため、この能力をバイオ医薬品の開発や製造に活かすことは大いに可能である。また、GDPの成長に伴い国民の可処分所得が向上し、ヘルスケア関連製品に対する需要や購買力は今後も拡大し続けていく見通しである。

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著者プロフィール

Saurabh

 

Saurabh Srivastava
株式会社チェンジ  
プリンシパル・コンサルタント

 

これまで数多くの民間企業や国際機関に対し、新興国市場における事業戦略の策定やマーケット主導型の製品開発を支援。3年前から東京に在住し、日本企業がインドやその他各国で事業展開する際の戦略策定支援や現地調査の設計・実施などの幅広いサポートを行っている。

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