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中国の元切り下げと株価下落のインド経済への影響

 コラム「インドのマクロ状況」vol.6

 中国の元切り下げと株価下落のインド経済への影響
 国際基督教大学教養学部上級准教授
 近藤正規
 2015年9月17日   

 

元切り下げと上海総合指数暴落

 最近の中国の株式市場の暴落と元の切り下げ、さらには中国経済に対する先行き不安感の増大は、世界のマーケットに対して少なからぬ影響を及ぼしている。インドでも、8月11日の中国の元切り下げとともに、ルピーは2か月ぶりの安値を記録した。さらに8月24日には上海の株式市場の暴落を受け、SENSEX指数は7%(1,624ポイント)の下落となった。この下げ幅は、09年以降で最大の下落であった。

インド・ルピー/ドル為替
(2014年10月~2015年9月)

INR-USD Chart

SENSEX指数(インド平均株価)

Sensex Chart

 

 7月までは中国の株価下落と経済減速は、インドに対する資本の流入をむしろ加速させていた感があったが、ここにきて新興国の株と通貨が売られる展開となり、その後もインド株式市場は神経質な展開を見せており、ルピー相場も株式相場も大きくは回復していない。昨年、「フラジャイル・ファイブ」の一角としてルピーが大きく売られたことは記憶に新しいが、米国の利上げも年内に行われる可能性が高い中で、インドの金融市場は大丈夫かと懸念する向きもないわけではなかろう。そこで本稿では、最近の中国の元切り下げと株式市場の下落がインド経済に及ぼす影響について考察してみたい。

インドの通貨と株が売られる背景

 中国の通貨・株価の下落と、インドの通貨・株価の下落の間に正の相関関係があることは言うまでもない。世界的な投資家のリスクオフの姿勢は、新興国の一角であるインドに対して少なからぬ影響を及ぼす。特に昨年の夏は、経常赤字と財政赤字の深刻なインド・ルピーが売られやすい展開となった。

 今回の中国の株式市場暴落に伴う国際金融市場の混乱に対して、RBIはインド・ルピーを買い支えたと伝えられており、翌8月25日の中国の利下げと同時にインド・ルピーが上昇し、一息つく展開となったことは、市場関係者を安心させた。

 ただし、その後も市場は低迷しているものの、インドの通貨下落に関して、昨年のような不安感はいまのところない。それは、昨年のインド・ルピーの下落時と現在においては、いくつかの相違点があるからである。その第一は、原油をはじめとする商品価格が今回は大きく下落しているのに対して、昨年は夏までは原油価格は下落していなかった。

 第二に、モディ政権発足とともに、海外直接投資と証券投資が昨年度と比べて倍増しており、経常収支改善をもたらした。外貨準備高は現時点で3,530億ドルを上回る。

 もちろん、中国の株価が下落するよりも米国が利上げを行うことを正式に発表する方が世界の金融市場に与えるインパクトははるかに大きいことは間違いないが、昨年よりもインドのショックに対する耐性が増していることは間違いない。

 

中国の経済減速がインドに影響する二つのルート

 中国の通貨や株の下落と経済の減速がインド経済に及ぼす影響は、大きく二つのルートがあると考えられる。一つは、今回のインドの株式市場の下落にみられるように、欧米や日本の投資家がリスクオフ姿勢に傾き、新興国インドの通貨や株を売るという流れであり、もう一つは中国経済の減速や元安がインド経済に直接及ぼす効果である。上に述べたことは、基本的に第一のルート、すなわち中国経済の減速とともにインドの株や通貨が売られるという流れである。基本的に、これはマイナス要因である。

 インドの場合、株価の下落が経済の直接及ぼす影響は、経済の株式市場への依存率がさほど高くないだけにさほど大きくないが、通貨下落は原油をはじめとする輸入価格の増加から経常赤字と財政赤字の拡大につながる。さらに通貨下落は国内インフレを深刻化させ、利下げを困難にすることにより、経済にもブレーキがかかる。

 二つ目のルート、すなわち中国経済の減速が直接インドに及ぼす影響については、マイナス面とプラス面のどちらが大きいかは一概に判断しにくい、と筆者は考える。以下、マイナス面とプラス面を整理してみたい。

 

インド経済に対するマイナス要因

 インドの産業界では、元切り下げによる製造業への影響が懸念され始めている。インドにとって中国は最大の輸入国であり、その輸入品の大半は工業品である。元切り下げにより、中国からの輸入製品が安くなることがインドの製造業にとってマイナス要因であることは間違いない。加えて、中国経済がさらに悪化した場合には、インフラの機材の輸入を中国に頼っているインドにとって不安定な要因ともなりうる可能性もある。

 ただし、インドから中国向けの輸出が減少することによるマイナス効果は、ほかのアジア諸国より遥かに少ないであろう。アセアン諸国や日本と比べると、インドの輸出に占める中国の比率は低い。インドがグローバルなサプライ・チェーンに組み込まれていないことが幸いした形となっている。また、インドにとっての中国への最大の輸出品目の鉄鉱石の需要減退が対中赤字の拡大につながることも考えられるが、他方国内産業に対する供給が増えるため、全体的な影響は測りにくい。

 

インド経済に対するプラス要因

 中国経済の減速によるプラス要因としては、鉄鉱石、石炭、原油などの商品の中国向け輸出が減少する、或いは伸び悩むことにより、これらの商品の国際価格が低下することがある。原油価格の低下は、海外投資家のリスクオフ姿勢によるものと中国の需要減による両方があるが、後者だけをみても影響は小さくない。

 原油価格が1バレルあたり1ドル低下することによって、インドにはおよそ10億ドル相当の経済メリットがあり、半分は民間セクターが享受すると考えられている。原油以外の商品でも、例えば石炭の価格が下がることによって発電所の採算が改善する、銅の価格が低下することにより電線のコストが下がる、といった具合にさまざまなメリットをインドは享受できる。

 第二のプラス要因として、海外投資家のインドへの注目がより高まることが考えられる。今国会で税制改革も土地法の改革も法案通過することなしに終わったのは残念であったが、そのような中にあって、最近では台湾の鴻海がアイフォーン製造工場をマハラシュトラ州に建設することを発表している。日本企業でも「中国の次はインド」という声がますます大きくなっていくであろうことを期待したい。

 第三に、中国の元安につられる形でルピーが安くなることによるメリットとして、IT、医薬品、化学、繊維などの産業のインド企業の輸出競争力が増すことが予想できる。現地に進出している日系企業にとっても、インドの輸出拠点としての重要性は多少なりとも増すであろう。また、新たに工場を建設する、あるいは企業買収を行う日本企業にとっても、ルピー安は追い風である。

 本稿で述べてきたように、中国経済の減速による影響は、直接的にはこのように曖昧である。今後インド経済を見ていくにあたって注意すべきことは、中国経済の動向よりむしろ、米国の利上げの時期と国際金融市場への影響であろう。

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著者プロフィール

Masanori Kondo

 

近藤正規
国際基督教大学教養学部 上級准教授

 

アジア開発銀行、世界銀行等にて勤務後、98年より国際基督教大学助教授、07年より現職。
06 年よりインド経済研究所客員研究員、日印協会理事を兼任。スタンフォード大学博士。
専門は開発経済学、インド経済。

 

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