インドの最新業界ニュース、2500社のインド企業情報を提供するポータルサイト

インド社員との向き合い方

コラム「インドの上にも10年」 vol.11

インド社員との向き合い方
Casa Blanca Consulting Pvt. Ltd. 代表取締役社長
荒木 英仁
2015年9月29日

 
 2005年に赴任以来今まで、数多くの日系企業の経営者達と親交がある中で、いつも話題になるのがインド人社員との向き合い方である。日本では知名度の高い優良企業であったとしてもインドでは殆ど無名に近く日本国内で発揮出来る程のブランド力がある訳では無い中で、いかに優秀なスタッフを雇用してロイヤリティの高い社員を多く抱えるかは皆一様に苦労していると思う。

 インドの日系企業の多くはまだ企業規模がそれほど大きくは無く、本社には大概いる人事部長のような社員を雇う余裕が無い場合が多い。結果として、HR(Human Resource)は経理部長が兼任していたり、カントリーマネージャー(現地法人社長)自らが責務を負う場合が多く、ある程度はハンズオンにならざるを得ない。

 そんな中で、良く耳にするのは、実力が伴ってないのに毎年常に高い昇給を望む社員、周りのスタッフを引き合いにして自分のポジションや給料の不満を述べる社員、せっかく苦労してノウハウを教え育てた挙句競合にあっさり転職する社員、ルールを全く守らない社員、遅刻を悪いと思っていない社員、冠婚葬祭、親族親戚の危篤等を理由にすればいつでも休めると思っている社員、等々挙げていったらきりが無いほどインドの社員達はアジアの中でも独特であると思う。

 私の前職のパートナー広告代理店は、オーナーが英国企業であるにも関わらず、全社員約500名はトップから平社員まで全てインド人で形成されていた。JV立上げ後も最初の3年余りは、日本人は私1人で、現地法人のその他の社員は全員インド人であったが、リクルーティングを含め人事について相談する相手はパートナー会社のCFOやHR部長等がいたので、他の日系企業に比べれば負担は少なかったと思う。それでも社員のモチベーションの維持や、日系企業への細かな対応を身に着けた主要スタッフの転職阻止等色々と苦労した記憶は少なくない。

 今回のコラムでは、インドで会社経営を10年余り経験し、数多くの日系企業或いはインド企業の経営者達との交流を通じて知り得たインド人スタッフの特性と彼らとの上手な向き合い方をシェアしたいと思う。

 

インド人スタッフの期待を理解すること

 まずは一般的なインド人スタッフが会社に何を期待しているかを知る事が肝要である。ある程度の教育を受けているインド人は特定の会社に入社する場合、その会社の組織の一員となり、いずれ経営に参画したいという気持ちが強い。会社に属した後、教育システムがキチンと整備されているかは大事なポイントである。また能力やパフォーマンスを正当に評価されるかどうかも、彼らの会社に対するロイヤリティ構築には必要不可欠な要素である。

 最近日本でも、年功序列では無く能力主義を謳っている会社を見受ける様にはなったが、まだまだ現場で実行されている例は少ないように思う。必ずしも英語が堪能では無い日本人経営者が多い在インドの日系企業に多く見受けられるのは、日本人に対し必要以上に敬意を表し、余り自分の意見を言わず、何を言われてもだまって付いて来る社員を優遇しすぎる傾向である。得てしてこういう社員達は勤続年数が長いわりにはあまり会社に貢献していない場合が多い。優秀な社員達程、自分の所属する会社の未来を真剣に考え率直に意見を述べる傾向にある。勿論、能力が伴っていないのに口だけが達者なインド人が多いのも事実なので、経営者にはそれを見極める能力は必要である。

企業のビジョンを社員と共有すること

 また、日本では有名な企業であったとしても、インドでは無名な場合も多いので、優秀な社員をキープする為には企業の価値を社員に明確に伝える事は重要である。企業の事業内容やポリシーを伝える事は肝要であるが、最も大事な事はインド市場或いはその先に向かう日系企業のビジョンを共有する事である。5年後、10年後のビジョンがあって初めてインド人社員達の向かう道、目指すポジションがクリアーになってくるのである。

オープンな環境作りに努力すること

 また、経営陣にとってはあまり聞きたくは無い忌憚の無い意見も言える様なオープンな環境作りも大切である。日本ではトップダウンの経営法が大半を占めるが、インドではこの方式はなかなか通用しない。情報源を側近の社員の意見だけに傾倒するのでは無く、あらゆる階級の社員と何らかのコミュニケーンが取れるシステム作りも大切であると思う。 常に社長室に籠り、必要に応じて社員を呼ぶのでは無く、あらゆる機会を利用しボトムアップの情報を仕入れる方策も肝要である。一般社員とランチを共にしたり、冠婚葬祭に顔を出したり、一緒にスポーツで汗を流したりと方法はいくらでもあると思う。 インドでは飲みにケーション的な事はあまりないが、それ以外でもチャンスはいくらでも作れるはずである。

 更に、年代によってインド人が会社に求めるものが変わってくるという事もある程度は把握しておくべき事であると思う。まず20代半ばから30代の社員。彼らが会社に期待するのは、平等な機会と能力、パフォーマンスに対する正当な評価(給料)である。そして30代後半から40代半ばの社員。彼らは家族に対する会社からのサポート、特に教育熱心なインド人達は会社から教育に対しての支援を期待する事が多い。40代半ば以降50代になるとマイハウス購買への支援、定年退職後のサポート等にマインドが移って行く。基本的には日本とあまり変わらないが、歴史の浅い日系企業においては、これらの当たり前の事が結構見落とされる場合が多いのも事実である。

インド人スタッフが持つ日系企業に対するイメージ

 私のインド人の友人達の中には日系企業に勤続15年以上の方々も多くおり、その人達が持つ日系企業のイメージを幾つか紹介したいと思う。必ずしも全てが合っているとは思えないが、日系企業に勤めるインド人社員達が会社に対してどう思っているかを知る参考になれば幸いである。

  1. 日本メーカー独自の教育システムは素晴らしい。メーカーでは多く見受けられるが、細かいマニュアルや規則が明記され徹底されている。非常に分かりやすい。良く実施される日本での研修制度等は、本社を知る上で高く評価されている。

  2. インドに送られてくるマネージャークラスの人達は以外と若い人が多く、海外経験が浅いように思う。そして彼らの下に配属されるインド人スタッフ達は年齢も上で経験も豊富な場合が多いので、もう少しインド人スタッフのノウハウを尊重する姿勢を見せないと、プライドが傷つく場合もあり、良い結果を生みにくい。インドも日本同様目上の人に対するリスペクトは大切である。

  3. 日本人社員は自分らの事をサラリーマンと呼び、上司の命令は絶対であり、例えそれが会社の不利益になるとしても服従するべきであると信じている。しかしながら、優秀なインド人スタッフ程会社の不利益になると思う場合上司には逆らう場合も多々ある事を理解して欲しい。

  4. 現場のマネジャーに権限が無い場合が多い。必ず上司にお伺いをたてた上で判断したり、場合によってはインドの事情を全く理解していない本社に判断を仰いだりする。結果としてタイムリーな施策を講じる事が出来ず会社に不利益が生じる。

  5. 上司の命令に服従し、永く勤続する社員を高く評価する傾向が顕著である。多くの優秀なインド人は勤めている期間より、いかに会社に貢献しているかが大切だと思っている。在インドの日系企業は貢献度より日本人上司への服従性を重んじているように見受けられる。

  6. 最後に、インド人スタッフが多く同席する会議中に日本人同士日本語で話し合いを始める事は出来る限り避けて欲しいという事。その場ではニコニコしているが、皆一様に勘弁して欲しいと思っている。お客さんへの対応であれば営業上必要である事は理解できるが、社内での会議では日本語をまぜるのは避けた方が賢明である。

インドで会社を経営して成功するには、インド人スタッフのサポート無しではあり得ない。彼らが会社に何を期待しているかを把握し、会社が彼らに何を望むかを明確に伝える事はとても大切である。インドで推して知るべし的発想は通用しない。前にも何度も触れてきたが、インドは地理的にはアジアの一部ではあるが、数多くの日系企業が今まで中国やアセアンで経験してきた事はあまり通用しない。私自身もインドに来る前に20年余り、東南アジアや中国で多くの中国系ビジネスマン達と接して得た知見は殆ど役に立っていない。多くのインド人は中国人以上に親日であると思うが、日本に対し必要以上にリスペクトを持っている訳でも無く、日本人が彼らより優れているとも思っていない。

しかしながら、とてもロジカルな民族である反面とてもウェットで浪花節が通じる人達でもある。そんな憎めない彼らと分かり合い、助け合えば、インド市場のみならず、中東、果てはアフリカまでまだまだチャンスは無限大に広がっていくと考える。

 

———————————————————————————————————————————-
コラム記事に関するご意見・ご感想はこちらからお問い合わせください(メーラーが起動します)

 

バックナンバー


>>インドビジネスコラム一覧へ

 

著者プロフィール


荒木 英仁

Casa Blanka Consulting Private Limited 代表取締役社長
www.casablankaconsulting.com

 

前 Asatsu-DK-Fortune Communications (世界最大のコミュニケーショングループWPPと日本第3位の広告代理店アサツー ディ・ケィの50/50 JV会社)代表取締役社長。30年余りに渡り海外マーケティングに従事して得た知見と12年余り(連続駐在歴10年)のインドビジネスの経験を生かし、インド市場で苦労されている日系企業、これからインド市場に挑む日系企業、並びに在印日本人、日本市場を対象にビジネス展開を目論むインド企業に対して、リーズナブルな価格で最大のサポートバリューを提供すべく、2014年3月末、インドで最も発展を遂げているグルガオンにて、カーサ・ブランカ コンサルティングを設立。

 

一覧に戻る