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ヘルスケア分野におけるグローバル企業とインドのスタートアップとの提携事例

コラム「ITスタートアップを活用したグローバル企業の21世紀型インド進出戦略」vol.2

 ヘルスケア分野におけるグローバル企業とインドのスタートアップとの提携事例
 リブライト・パートナーズ
 石崎 弘典
 2016年6月7日   


 ヘルスケア市場は今後の成長という観点で非常に大きな潜在性を有しており、ITの導入による消費者向けの医療系アプリの展開、ビッグデータやAIの技術活用による医療改革などへの期待が高まっています。インドでは、国内の医療インフラ環境の特異性より、ユニークなヘルスケアビジネスを展開するスタートアップが増えており、そこに世界中から投資が集まり、また名だたるグローバル企業が出資を実施しながら各種提携を行っています。今回は、インドのヘルスケア分野におけるグローバル企業と現地スタートアップの提携について、いくつかの事例を紹介しながら記載していこうと思います。

●インド特有の医療インフラ環境とその問題を解決するスタートアップのビジネス

 現在、世界中でヘルスケア分野のイノベーションに注目が集まっています。技術革新によって、人々が受けられる医療サービスの選択肢が広がり、健康意識の向上、診断の効率化、診療費の抑制などの効果が期待されています。先進国では高齢化に伴う介護要請や生活習慣病の増加に伴う医療需要、また発展途上国では根本的な医療環境整備に対する需要があり、現在のヘルスケア産業の市場規模は608億ドルですが、2020年には3倍以上の2,333億ドルへ成長することが予想されています。

 インドにおいてはその特殊な医療環境によって、種々様々な問題が生じており、こういった問題を解決するために多くのヘルスケアスタートアップが設立されています。データベースによると、インドのヘルスケア企業は現在1,150社程度ですが、そのうち半分はここ5年(2011年~15年)の間に登録されたとされています。

 ここでインドにおけるヘルスケア分野の代表的な事業形態をいくつか紹介します。インドでは農村部を中心に病院と医師の数が絶対的に不足しており、オンライン診断(例:Docsapp)や病院予約サービス(例:Practo)など、医療サービスを効率化するサービスに大きな注目が集まっています。また、カルテなど患者の医療情報の管理が不完全な状態になっていることが問題視されていますが、スマートフォンなどで簡易に情報を管理できるアプリの開発なども進んでいます(例:Plaxify)。更に、国内の豊富なシステムエンジニアリング人材を背景に、人工知能の新しいコンピューティング技術を駆使し、遺伝子診断(例:Mapmygenome)やビックデータの解析から患者ごとに最適な治療法を提示する事業も生み出されていっています(例:Xcode)。

 

●スタートアップを活用したグローバル企業のインドヘルスケア戦略

 グローバル企業とインドのヘルスケア分野のスタートアップとの連携は、多岐に渡って実施されていますが、主として事業提携スキームと投資スキームの2つに大別されます。前者の代表企業としてはGEが挙げられ、また後者としてはMicrosoftが主要なプレイヤーとして挙げられます。

 こうした動きは多くの欧米企業がリードする形で生起していますが、企業風土的にオープン・イノベーションが苦手と日本企業は称されており、そもそも市場戦略の選択肢として捉えられていない節があります。そもそも、この手の事例に関する情報が日本で普及していない状況になっていることも要因であるかと思いまして、下記では既にインドのヘルスケア分野のスタートアップと連携しているグローバル企業の連携ケースを取り上げ、その概略についての記載を進めていきたいと思います。

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グローバル企業とインドIoTスタートアップの連携事例①(提携型):GE

 GEはインド国内最大の医療システム企業であるWiproとの間で設立した合弁会社、また地方向け低価格戦略や販売ネットワーク獲得のために実施した医療機器メーカーVersa Med Corpの買収など、過去にも様々な手法においてインドのヘルスケア市場へ向けた戦略を講じてきました。しかし、近年はバンガロールにThe John F. Welch Technology Center という名称のR&Dセンターを設立し、ヘルスケア、そしてエネルギーや航空・交通などの分野における開発を進めるため、6,000名の科学者を雇用しています。ここで注目されるべきことは、同センターが現地スタートアップとの積極的連携を発表し(Vikram Damodaran, Director of Healthcare Innovation at GE Healthcare India)、ビジネス・アイデアの共有・共同事業を展開しているという点です。複数分野の専門家やスタートアップが集い、新たなイノベーション生成を目的にした共同研究開発が実施されています。そこで生み出されたアイデアは、本国へ送られて更なる製品開発が行われたり、また現地向けの製品の中に埋め込まれたりと、事業開発に幅広く貢献をしています。

グローバル企業とインドIoTスタートアップの連携事例②(出資型):Microsoft

 MicrosoftのCVCであるMicrosoft Venturesは、インド・バンガロールにMicrosoft Ventures Accelerator Bangaloreを設立し、現地のスタートアップエコシステム発展への貢献を目指しています。Microsoft Ventureを通じて、ヘルスケア分野のスタートアップに対しては既に5社へ投資を実施しており、投資のステージは主にはアーリー・ステージとなっています。事業領域としては、ポータルメディアや健康管理アプリや医療データ解析に従事する企業へフォーカスをしており、これらのスタートアップの事業リソースを軸にして、今後のインドのヘルスケア市場を開拓していくという目論みが背景としてあります。

 Microsoftにとってヘルスケアはかねてより主要事業ドメインではありませんでしたが、全世界的に潜在的な需要の成長が見込まれる同産業に対して積極的に進出しようという社の意向があり、その上でインドはヘルスケアテクノロジーの質の観点、また同国市場の成長事態に大きな魅力があるため、既存のスタートアップへの個別出資を通じて、スタートアップ内のコアテクノロジーを含む事業リソースや現地における営業ネットワークを効率的に取り込んでいこうという狙いが見受けられます。

 

●結びに

 米国ダートマス大学のビジャイ・ゴビンダラジャン教授が提唱したリバース・イノベーションは、経営学の中でも最も広く世の中に認知されている理論の一つとされています。上記で記してきました提携事例は、単にグローバル企業がインドの市場を開拓していく上で現実的な戦略をなるのみならず、日本を含めグローバルで通じるコアなテクノロジーや製品の開発を実施していくためにも有効な手段になるはずであり、まさにリバース・イノベーションを体現していくものなのです。日本の企業も、現地スタートアップとの連携を駆使して、新たなイノベーションの創出を志すということが、重要な選択肢の一つになる日は迫ってきていると思われます。

 

 
 <リブライト・パートナーズ>

 シンガポールを拠点にインド、東南アジアのスタートアップへ投資をするベンチャー・キャピタル。
 日本のIT系上場企業を中心に出資を受け、単なるアジアのベンチャー投資に収まらず、日系企業の
 アジア進出のためのゲートウェイファンドとして、各種市場・企業調査から、日系企業との共同
 投資の実施、更にはM&A実行支援まで幅広い業務を提供する。近年は、政府機関や各種経済連盟
 などとも連携をし、インド投資促進のためのプロジェクトにも従事している。

 URL:http://rebrightpartners.com

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著者プロフィール

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石崎 弘典(いしざき ひろのり)
リブライト・パートナーズ
Senior Analyst

 


東京大学文学部フランス語フランス文学専修卒業、米国公認会計士試験合格。 在学中は休学して、パリ大学ソルボンヌに留学、音楽を中心にフランス文化を学ぶ。 2013年からインドの大手会計事務所に勤務し、日系ほか外資企業のインド市場進出支援を、税務・法務・財務の観点から支援。2014年度西インド地域の政府系機関専属アドバイザーも歴任。インドビジネスに関する知識を活かし、メガバンクなど(みずほ、政策投資銀行)が発行するビジネスジャーナルへの寄稿、また政府系機関(JETRO)や外資系銀行(HSBC)などが主催するセミナーへもスピーカーとして登壇。

9月よりシンガポールベースのベンチャーキャピタルRebright Partnersに入社し、インドを中心にアジアのスタートアップスタートアップへ投資を実施。

 

 

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